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2013年12月 4日 (水)

「生活者」から「山羊の歌・初期詩篇」へ・「朝の歌」その3

(前回からつづく)

「黄昏」につづき「朝の歌」を読んで
二つの詩の類似性に気づいた人は
少なくはないはずです。

その一つが「失う=うしなう」という言葉使いです。
「黄昏」で歌われた「失われたもの」が
「朝の歌」には「うしないし さまざまのゆめ」として現われました。

二つの詩は
その詩世界への入り口に
この「失う=うしなう」という言葉を置いているようです。

二つの詩の世界へ入るのに
「失う=うしなう」という言葉が目印になります。

もう一つの類似性は
第3連と第4連の間にある
時間や空間の「切断」とか「飛躍」とかです。

「黄昏」を思い出してみれば

なにが悲しいったってこれほど悲しいことはない
草の根の匂いが静かに鼻にくる、
畑の土が石といっしょに私を見ている。

――竟(つい)に私は耕やそうとは思わない!
じいっと茫然(ぼんやり)黄昏(たそがれ)の中に立って、
なんだか父親の映像が気になりだすと一歩二歩歩(あゆ)みだすばかりです

――という、この第3連と第4連の間のことです。

この「間」には
「時間の経過」や
「空間の移動」(または、その直前の静止)があります。

「朝の歌」では

森竝(もりなみ)は 風に鳴るかな
――と歌った後に
しばらくの時間があり、
その時間は停止していますが
やがて、
ひろごりて たいらかの空、
  土手づたい きえてゆくかな
うつくしき さまざまの夢。
――と続いていきます。

ここにある「時間の経過」を読めば
「ひろごりて たいらかの空」は
「はなだ色らし」の空と異なる空であることに気づかされます。

寝床にあって「はなだ色らし」の空は
詩人が眼前に目撃している空(の色)ではなく
戸のすき間から洩れる光の具合を見てはなだ色「らしい」と感じた空ですが
「ひろごりて たいらかの空」は
微妙に変色した遅い朝の(昼過ぎの)生気を失った空(の色)で
詩人はこの空を実際に眺めたものかもしれません。

この「時間の経過」の中に思念は生まれ
目前に見える空に
故郷の空が混入してくるのです。

「黄昏」と「朝の歌」の
二つの詩のどちらが先に作られたかは確定できません。

どちらが先の制作であるかを知ることは重要なことですが
「山羊の歌」では
「朝の歌」が5番目
「黄昏」が9番目に置かれました。

どちらも「初期詩篇」22篇のうちの
前半部に配置されていますが
「朝の歌」が「黄昏」より前に置かれたというところに
詩人の意図があることは間違いありません。

どのような意図があったのでしょうか。

少年時
みちこ

羊の歌
――という明確な「テーマ性」で編集された「山羊の歌」の後半部に比べて
「初期詩篇」は「初期」という「時間軸」でまとめられたのですから
詩人の意図は見えてきません。

テーマ(性)そのものが詩人に見えていなかった時代の詩篇ということになりますが
テーマに沿って収斂(しゅうれん)し
深みを増していく詩群とは違って
多彩で多方向な詩篇が
味わい尽くされないままに蠢(うごめ)いているところが
「初期詩篇」の世界のようです。

「初期詩篇」の半数(11篇)が「生活者」発表です。
「初期詩篇」のまだ半分も読んでいません。

今回はここまで。

朝の歌
 
天井に 朱(あか)きいろいで
  戸の隙(すき)を 洩(も)れ入(い)る光、
鄙(ひな)びたる 軍楽(ぐんがく)の憶(おも)い
  手にてなす なにごともなし。

小鳥らの うたはきこえず
  空は今日 はなだ色らし、
倦(う)んじてし 人のこころを
  諫(いさ)めする なにものもなし。

樹脂の香(か)に 朝は悩まし
  うしないし さまざまのゆめ、
森竝(もりなみ)は 風に鳴るかな

ひろごりて たいらかの空、
  土手づたい きえてゆくかな
うつくしき さまざまの夢。

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