「生活者」から「山羊の歌・初期詩篇」へ・「秋の夜空」その2
(前回からつづく)
秋の夜空
これはまあ、おにぎわしい、
みんなてんでなことをいう
それでもつれぬみやびさよ
いずれ揃(そろ)って夫人たち。
下界(げかい)は秋の夜(よ)というに
上天界(じょうてんかい)のにぎわしさ。
すべすべしている床の上、
金のカンテラ点(つ)いている。
小さな頭、長い裳裾(すそ)、
椅子(いす)は一つもないのです。
下界は秋の夜というに
上天界のあかるさよ。
ほんのりあかるい上天界
遐(とお)き昔の影祭(かげまつり)、
しずかなしずかな賑(にぎ)わしさ
上天界の夜の宴。
私は下界で見ていたが、
知らないあいだに退散した。
◇
「秋の夜空」が
上天界に集う夫人たちのお祭り(影祭)を歌った詩であることは
初めて読んだときには
最終連を読んで理解します。
2度目に読んだときには
第1連冒頭の
これはまあ、おにぎわしい
――というセリフが
お祭りの賑わいへの感想であることを理解します。
◇
ああ、夜空で夫人たちが宴に興じていて
おしゃべりをしているのだ
みんなてんでんばらばらなことを言っている
みやびやかだけどツンとしましたものだよ(第1連)
磨きのかかった床
金色に照明が輝いていて
小さな頭の八頭身美人たちが長い裾を引きずっているのだ
そこに椅子が一つも見当たりません。(第2連)
上天界はほんのりあかるく
遠い昔の影祭りだ
静かな賑わいだ
夜の宴なのだ。(第3連)
上天界の宴の様子だけを追えば
このようになります。
◇
この宴を下界からのぞき見ているのが
私=詩人です。
ひっそりと息をひそめて
上天界の影祭りを眺めているのですが
しばらくして私の知らない間にどこかへ退散してしまいました。(第3連)
◇
ここまで読み通して
「退散した」のは
夫人たちではなく私かもしれない、とか
これはまあ、おにぎわしい
――とまるで宴の中にいるようなセリフは
下界にいる詩人と辻褄があわない、とか
幾つか謎が出てきます。
そもそも
夜空の宴って何だろう、という疑問が生じてきます。
◇
今回はここまで。
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