白秋の二つの詩/「雪の宵」その2
(前回から続く)
「雪の宵」のエピグラフにした
北原白秋の詩「青いソフトに」は
白秋の第2詩集「思い出」にあります。
「青いソフトに」を
いま手元にある神西清編「北原白秋詩集」(新潮文庫、昭和48年4月30日 39刷)をめくると
青いソフトに
青いソフトにふる雪は
過ぎしその手か、ささやきか、
酒か、薄荷(はっか)か、いつのまに
消ゆる涙か、なつかしや。
――とあります。
◇
「新編中原中也全集」第1巻・解題篇は
参考として、
「思い出」(東雲堂書店、明治44年発行)の中のこの詩を紹介していますが
吉田凞生編「中原中也必携」(別冊国文学No4 1979夏季号)中の解釈資料には
「青いソフトに」に続いて配置されている
「意気なホテル」という詩も同時に紹介しています。
◇
この「意気なホテル」という詩は
神西清編「北原白秋詩集」中の「思い出」に収録されていませんし
「新編中原中也全集」にも紹介されていないのですが
中原中也の「雪3部作」に深い影響がありますから
ここで掲出しておきましょう。
◇
意気なホテル
意気なホテルの煙突(けむだし)に
けふも粉雪のちりかかり、
青い灯(ひ)が点(つ)きや、わがこころ
何時もちらちら泣きいだす。
◇
この詩は「青空文庫」にも収録されていますが、
同文庫では旧漢字をそのまま使用し
タイトルは「意氣なホテルの」であるなど
「中原中也必携」と若干の違いがあります。
※このブログでは
ひとまず「意気なホテル」としておきます。
◇
白秋の二つの詩
「青いソフトに」
「意気なホテル」
――は
中也の三つの詩
「汚れっちまった悲しみに……」
「雪の宵」
「生いたちの歌」
――を読むときに「欠かせない」参考資料になります。
◇
雪の宵
青いソフトに降る雪は
過ぎしその手か囁きか 白 秋
ホテルの屋根に降る雪は
過ぎしその手か、囁(ささや)きか
ふかふか煙突(えんとつ)煙吐(けむは)いて、
赤い火の粉(こ)も刎(は)ね上る。
今夜み空はまっ暗で、
暗い空から降る雪は……
ほんに別れたあのおんな、
いまごろどうしているのやら。
ほんにわかれたあのおんな、
いまに帰ってくるのやら
徐(しず)かに私は酒のんで
悔(くい)と悔とに身もそぞろ。
しずかにしずかに酒のんで
いとしおもいにそそらるる……
ホテルの屋根に降る雪は
過ぎしその手か、囁きか
ふかふか煙突煙吐いて
赤い火の粉も刎ね上る。
(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)
◇
白秋の作った二つの詩から
中也は三つの詩へと展開しました。
「汚れっちまった悲しみに……」
「雪の宵」
「生いたちの歌」
――は独立した詩ではありますが
切り離せない関係にあります。
この3作品は
互いに補(おぎな)う部分を含んでいます。
◇
今回はここまで。
最近のコメント