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2014年5月 2日 (金)

雪と火(の粉)のルフラン/「雪の宵」その3

(前回から続く)

「雪の宵」は
エピグラフの2行を除いて
2行×9連(18行)の詩ですが
冒頭2連と末尾2連が

ホテルの屋根に降る雪は
過ぎしその手か、囁(ささや)きか
  
ふかふか煙突(えんとつ)煙吐(けむは)いて、
赤い火の粉(こ)も刎(は)ね上る。

――のルフランです。

全18行のうちこの4行が繰り返され
(4行×2=8行の)ルフランが詩のリズムの基調を作ります。

雪の宵

        青いソフトに降る雪は
        過ぎしその手か囁きか  白 秋

ホテルの屋根に降る雪は
過ぎしその手か、囁(ささや)きか
  
  ふかふか煙突(えんとつ)煙吐(けむは)いて、
  赤い火の粉(こ)も刎(は)ね上る。

今夜み空はまっ暗で、
暗い空から降る雪は……

  ほんに別れたあのおんな、
  いまごろどうしているのやら。

ほんにわかれたあのおんな、
いまに帰ってくるのやら

  徐(しず)かに私は酒のんで
  悔(くい)と悔とに身もそぞろ。

しずかにしずかに酒のんで
いとしおもいにそそらるる……

  ホテルの屋根に降る雪は
  過ぎしその手か、囁きか

ふかふか煙突煙吐いて
赤い火の粉も刎ね上る。

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)

なによりもこのルフランが
「雪の宵」の出色(ストロング・ポイント)です。

このルフランは
「雪の宵」にあって
「青いソフトに」と「意気なホテル」にはないものです。

「雪」は
白秋の場合も中也の場合も
「思い出=過去」を呼び覚ます触媒として現われました。

七五音による流麗感も
どちらの詩にも際立っていますが
「雪の宵」のルフランは
この詩の生命線です。

ホテルの屋根に
雪が降っている。
その雪は
恋人の手かささやきか。

――と歌い出して
過ぎた日を回想するきっかけになる雪への眼差しは
同時にもくもく立ち昇り
中で火の粉が爆(は)ぜている
煙突の煙へと向かっているのです。

ルフランが「音」の世界だけではなく
「意味」の世界でも機能しているのです。

「形」だけでなく
「内容」の世界でも
ルフランが活躍しているのです。

雪と火(の粉)のルフランなのです。

今回はここまで。

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