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2014年6月30日 (月)

「朝の歌」の「土手づたい」/面白い!中也の日本語

(前回からつづく)

「森竝は風に鳴るかな」と我々の想像は外へ出る。「ひろごりて平らかの空」と下を、「土手づたいきえてゆく」という比喩は再びわかりにくいが、恐らくここで我々を焦立ちから救うものは、「土手づたい」という俗にして稚拙な成句である。

大岡昇平は
1956年に雑誌「世界」に発表した「朝の歌」(現在「中原中也」所収)で
このように記しています。

「朝の歌」について
それが作られた背景から
詩自体の技術的完成の詳細を記述する中の一部に過ぎませんが
ここで注目しておきたいのは
「俗にして稚拙な成句」と大岡が指摘した「土手づたい」です。

「土手づたい」という言葉を
「俗にして稚拙な成句」と感知した大岡の言語意識です。

大岡はここで
「土手づたい」が
詩が「分かりにくい」流れに陥りそうになったところに現われたために
(かえって)救われるという肯定的評価を述べているのですが
その評価の理由になった「俗にして稚拙な成句」という受け止め方には
関口隆克が「羊の歌」の「もろに」にから「俗」を感じるのと
同じものがあります。

今回はここまで。
「朝の歌」を掲出しておきます。

朝の歌
 
天井に 朱(あか)きいろいで
  戸の隙(すき)を 洩(も)れ入(い)る光、
鄙(ひな)びたる 軍楽(ぐんがく)の憶(おも)い
  手にてなす なにごともなし。

小鳥らの うたはきこえず
  空は今日 はなだ色らし、
倦(う)んじてし 人のこころを
  諫(いさ)めする なにものもなし。

樹脂の香(か)に 朝は悩まし
  うしないし さまざまのゆめ、
森竝(もりなみ)は 風に鳴るかな

ひろごりて たいらかの空、
  土手づたい きえてゆくかな
うつくしき さまざまの夢。

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)

今回はここまで。

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