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2014年7月24日 (木)

骨格から肉へ/面白い!中也の日本語

(前回からつづく)

悲愁に暮れている月(誰か)が
首切り(役人)を待っているのです。

――と読めたところで
詩の骨格(大意)はつかめたとみなしてよいでしょう。

ここまで読んで
詩を離れてもいっこうに構いません。

次の詩へ進むのも
一つのあり得る詩集の読み方であることでしょう。

「悲しみ」を縦糸(たていと)にして
次に置かれた
「サーカス」
「春の夜」
「朝の歌」
「臨終」
……と詩集を追って行く味わい方もOKでしょう。

いつかまた戻ってきて
もっともっと親密に詩の内部世界へ入りたくなることもあるでしょうし
戻ってこなくても
「月」はしつっこい悲愁(かなしみ)に付き纏(まと)われる誰かが
そのかなしみを首切り役人に断ち切ってほしいことを願う「あの詩だな」くらいで
通り過ぎるのも詩の読み方の一つではあるでしょう。

そうでなければ
あとは肉(ディテール=細部)が残るのですが
それは詩でいえば第2連、第3連です。


 
今宵(こよい)月はいよよ愁(かな)しく、
養父の疑惑に瞳を睜(みは)る。
秒刻(とき)は銀波を砂漠に流し
老男(ろうなん)の耳朶(じだ)は蛍光をともす。

ああ忘られた運河の岸堤
胸に残った戦車の地音(じおん)
銹(さ)びつく鑵(かん)の煙草とりいで
月は懶(ものう)く喫(す)っている。

それのめぐりを七人の天女(てんにょ)は
趾頭舞踊(しとうぶよう)しつづけているが、
汚辱(おじょく)に浸る月の心に

なんの慰愛(いあい)もあたえはしない。
遠(おち)にちらばる星と星よ!
おまえの劊手(そうしゅ)を月は待ってる

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)

そこでまた読み返してみれば
第1連=起
第2連=承
第3連=転
第4連=結
――の整った形が見え
骨格はいっそうはっきりつかめることでしょう。

過程、経緯を歌った部分である
第2連と第3連は
なにを歌っているのでしょうか?

そこで繰り返し繰り返し
全体をまた読みます。

ここで「月」に現われる登場するモノ(者・物)を
擬人化されたキャラクターを含めて整理してみましょう。


養父
老男
七人の天女
星(と星)
劊手(そうしゅ)
――となります。

主格は月ですね。

よく読めば
すべての連に月は登場しています。

今宵(こよい)月はいよよ愁(かな)しく、=第1連
月は懶(ものう)く喫(す)っている。=第2連
汚辱(おじょく)に浸る月の心に=第3連
おまえの劊手(そうしゅ)を月は待ってる=第4連

ますます整った形の詩であることが見えてきました。

月は、
愁しく
懶く
汚辱に浸(り)
待ってる
――のです。

月と養父の関係はどうなっているのか?
養父と老男は同一人物か?
同一人物ならば
なぜ養父が出てくるのか?

第3連の「それ」は月だから
7人の天女が月の周りを踊っているのですが、
この7人の天女は
一般名詞ではなく固有名詞でありそうだ

――などといろいろと疑問が出てきたり
不明な部分が明らかになったりします。

途中ですが
今回はここまで。

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