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2014年7月25日 (金)

大きな手がかり「ああ」/面白い!中也の日本語

(前回からつづく)

第1連と最終連で、
悲愁に暮れている月(誰か)が
首切り(役人)を待っている
――ということがわかり、

各連に月を主語にした述語がはっきり明示され、
月が、
愁しく
懶く
汚辱に浸(り)
待ってる
――のですから
これで大体はつかめたと考えてよいでしょう。

そこでディテール(細部)に目を配る余裕ができます。
「月」の周辺の登場人物の正体や
それぞれの関係を詮索(せんさく)しはじめることになり
詩のレトリック(修辞法)にも目が向かいます。

第1連は「起」。

養父とはだれのことか、とか
その疑惑とはなんのことか、とか
その疑惑に瞳を睜(みは)るのは月のようだがなんのことか、とか
幾つかの問いが生まれますが
さしあたっては言葉通りに読んでおけば済むはずです。

月には養父があり
その養父が疑惑を抱いていて
その疑惑に月は目を凝(こ)らしているのでしょう。

秒刻(とき)は銀波を砂漠に流し
老男(ろうなん)の耳朶(じだ)は蛍光をともす。
――は歯が立たないからパスすることにして。

第1連は最後までやっかいですが
このやっかいさを苦痛にしてはいけません。

第2連は「承」。
1連を受けます。
「愁しみ」が続くのでしょう。

「ああ」と嘆息(たんそく)するのは詩の作者=詩人に違いありません。
詩人が顔を出すのです!
ここに大きな手がかりがありますね。

忘れられた運河の岸堤を
詩人は想起しているようです。

ああ! (みんなあの)運河の岸堤のことを忘れてしまった。

(月の)胸に残った戦車の地音(じおん)。
戦車が大地を轟かす音。
戦争の記憶がよみがえるのです。

銹(さ)びつく鑵(かん)の煙草とりいで
月は懶(ものう)く喫(す)っている。
――は字義通りで
戦争の記憶を呼び起こした月が
浮かぬ思いを抱いてタバコをクサクサとふかしている描写。

運河の岸堤も戦車も戦争も
詩人が実際に見聞きしたものか
喩え(メタファー)としての戦車・戦争かを
どこかで見極めなければなりません。

ここでは
その段階に来ていません。

第3連は「転」。
展開があります。

それ(月)の周りを7人の天女(てんにょ)が踊っています。
先ほどからトーダンスで
月を喜ばそうとしているのですが。

第4連は「結(論)」。

天女たちのダンスは
月をいっこうに慰めないのです。

そして、
あっちの方で瞬(またた)いている星々に向かって
月は呼びかけるのです。
お前の首切りナイフを待ってるぜ、と。

難解難解と感じながらも
なんとか読めたのではないでしょうか。

途中ですが
今回はここまで。


 
今宵(こよい)月はいよよ愁(かな)しく、
養父の疑惑に瞳を睜(みは)る。
秒刻(とき)は銀波を砂漠に流し
老男(ろうなん)の耳朶(じだ)は蛍光をともす。

ああ忘られた運河の岸堤
胸に残った戦車の地音(じおん)
銹(さ)びつく鑵(かん)の煙草とりいで
月は懶(ものう)く喫(す)っている。

それのめぐりを七人の天女(てんにょ)は
趾頭舞踊(しとうぶよう)しつづけているが、
汚辱(おじょく)に浸る月の心に

なんの慰愛(いあい)もあたえはしない。
遠(おち)にちらばる星と星よ!
おまえの劊手(そうしゅ)を月は待ってる

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)

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