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2014年7月28日 (月)

おやじのハゲ頭/面白い!中也の日本語

(前回からつづく)

月は、地球の衛星である月ではなくて
人のメタファー(喩)です。
その人は愁しみのドラマの中にあり
その主人公です。

誰だか不明な人間を月に見立てて
その悲愁の根を
首切りナイフで切り落としてしまいたいと願うほどに
根深い愁しみのようです。

はじめ不明なこの人こそ
詩の作者である詩人にほかならないことが見えてきました。

詩人と遠いところにいる一人の読者が
素手で「月」を読めばこのようになりますが
詩の読みは十人十色、百人百様。
人によってまったく異なる読みが試みられるのが普通です。

幼き日の詩人に最も近くにいた弟、中原思郎は
まったく意外な読みを披瀝していて
とても説得力がありますし
あまりに面白いので
それを見ておくことにしましょう。

「中原中也必携」(学燈社、「別冊国文学」1979年夏季号、吉田凞生・編)の中に
「事典・中也詩と故郷」はあり
「月」に関する記述を読むことができます。

「あゝ」
「いちじく」
「蛙」
「家系」
「帰郷」
「汽笛」
「血縁」
「校外教師」
「権現山(ごんげんやま)」
「三歳の記憶」
「詩的萌芽」
「詩碑」
「泰雲寺(たいうんじ)」
「長門峡(ちょうもんきょう)」
「長楽寺」(ちょうらくじ)」
「月」
「トタンがセンベイ」
「墓」
「椹野川(ふしのがわ)」
「防長新聞(ぼうちょうしんぶん)」
「亡弟」
「骨」
「水無川(みずなしがわ)」
「山羊」
「山口・湯田」
――。

この「事典」の見出し語をすべて挙げてみましたが
タイトル「事典・中也詩と故郷」の通り
中也の先祖から幼少時代のエピソードを集めた事典であり
詩人の故郷への案内になっています。

いまや世界詩人としての評価が高まりつつあり
これまで都会詩人であると見なされてきた中也は
まぎれもなく地方詩人でありました。

もっともどんな国際詩人も
出自となるとローカル色がにじみだすのは当たり前ですが。

中に「月」の項はあります。

「月」を中也の父・謙助と見立てて読んでいます。
一部を読みましょう。

(略)
父謙助の頭髪は、軍人時代の半ばころから薄くなり、爾来急速に禿げつづけ、黄金時代の中期す
でに丸禿げであった。中也ら子供たちは、父の禿げ頭を背ろから指さし、「出た出た月が、まある
いまあるいまんまるい」と歌って笑い転んだ。
(略)

月が「おやじのハゲ頭」だなんて!

オモシロスギマセンカ!


 
今宵(こよい)月はいよよ愁(かな)しく、
養父の疑惑に瞳を睜(みは)る。
秒刻(とき)は銀波を砂漠に流し
老男(ろうなん)の耳朶(じだ)は蛍光をともす。

ああ忘られた運河の岸堤
胸に残った戦車の地音(じおん)
銹(さ)びつく鑵(かん)の煙草とりいで
月は懶(ものう)く喫(す)っている。

それのめぐりを七人の天女(てんにょ)は
趾頭舞踊(しとうぶよう)しつづけているが、
汚辱(おじょく)に浸る月の心に

なんの慰愛(いあい)もあたえはしない。
遠(おち)にちらばる星と星よ!
おまえの劊手(そうしゅ)を月は待ってる

(「新編中原中也全集」第1巻・詩Ⅰより。「新かな」に変え、一部「ルビ」を加えました。編者。)

途中ですが
今回はここまで。

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