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« 白秋の恋を歌った?朔太郎「夜汽車」 | トップページ | 憤激に満ちた故郷憧憬詩 »

2014年8月21日 (木)

遠きにありて思う「郷土」

(前回からつづく)

「夜汽車」とともに
「朱欒(ザムボア)」の大正2年5月号に掲載された詩は
みな「抒情小曲集」の「愛憐詩篇」に収められています。

「夜汽車」を含め
「こころ」
「女よ」
「桜」
「旅上」
「金魚」
――の6篇です。

「夜汽車」以外の5篇にも
ここで目を通しておきましょう。

こころ

こころをばなににたとへん
こころはあぢさゐの花
ももいろに咲く日はあれど
うすむらさきの思ひ出ばかりはせんなくて。

こころはまた夕闇の園生のふきあげ
音なき音のあゆむひびきに
こころはひとつによりて悲しめども
かなしめどもあるかひなしや
ああこのこころをばなににたとへん。

こころは二人の旅びと
されど道づれのたえて物言ふことなければ
わがこころはいつもかくさびしきなり。

心というものを何に喩えたらよいのだろう。

心はアジサイの花に似て
また公園の吹き上げ(泉水)に似ているけれど。

二人の旅人みたいなものかなあ。
一人は片言もものをしゃべらず
いつもさびしい二人。

そのどっちもが僕の中にいるよ。



女よ

うすくれなゐにくちびるはいろどられ
粉おしろいのにほひは襟脚に白くつめたし。
女よ
そのごむのごとき乳房をもて
あまりに強くわが胸を圧するなかれ
また魚のごときゆびさきもて
あまりに狡猾にわが背中をばくすぐるなかれ
女よ
ああそのかぐはしき吐息もて
あまりにちかくわが顏をみつむるなかれ
女よ
そのたはむれをやめよ
いつもかくするゆゑに
女よ 汝はかなし。

ゴムのごとき乳房が忘れられなくなる詩ですね。
そしてどこかつくりものめいた肉感があるのは
「月に吠える」への繋がりを思わせますが。

中也の「女へ」への反響はどうでしょうか?





桜のしたに人あまたつどひ居ぬ
なにをして遊ぶならむ。
われも桜の木の下に立ちてみたれども
わがこころはつめたくして
花びらの散りておつるにも涙こぼるるのみ。
いとほしや
いま春の日のまひるどき
あながちに悲しきものをみつめたる我にしもあらぬを。

花見花見と
人はなにを騒ぐのだろうか。
僕も桜の木の下に立ってみたけれど
うかれない。
散る花びらに涙がこぼれるだけ。
悲しいものを見ているわけでもないのに。



旅上

ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背広をきて
きままなる旅にいでてみん。
汽車が山道をゆくとき
みづいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに。

フランスへ行きたいと思うけど
フランスはあまりに遠い
せめて新調した背広を着て
旅に出てみよう。

水色の窓辺に寄りかかって
楽しいことを想像していよう。

5月の朝まだき
若草が萌え出るのに心を任せて。

詩人は旅に出ていないのですね。



金魚

金魚のうろこは赤けれども
その目のいろのさびしさ。
さくらの花はさきてほころべども
かくばかり
なげきの淵(ふち)に身をなげすてたる我の悲しさ。

金魚は赤いけど
目はなんと寂しげなんだ。
桜が咲きほころぶ季節になっても
わたしは嘆きの底にあるという悲しさよ。

詩集「純情小曲集」は
「夜汽車」を含むこれら6篇を前半部とし
後半部にさらに12篇を収めて「愛憐詩篇」とします。

この「愛憐詩篇」のほかに
「愛憐詩篇」よりも後で制作された詩群10篇を配置し
「郷土望景詩」と章題をつけました。

朔太郎が
「愛憐詩篇」と「郷土望景詩」を合わせて「純情小曲集」という1冊の詩集にしたのは
大正14年(1925年)のことでした。
生地前橋を離れ上京してからです。

ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
――と畏友室生犀星が歌ったのに応えるかのように。

「純情小曲集」に寄せた朔太郎の自序には
この詩集への朔太郎自身の思いが込められて
強い響きを放っているようです。

今回はここまで。

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