カテゴリー

2026年9月
日 月 火 水 木 金 土
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      
無料ブログはココログ

« 漂泊者の歌・「氷島」メモ1/面白い!中也の日本語 | トップページ | 乃木坂倶楽部・「氷島」メモ3/面白い!中也の日本語 »

2014年8月26日 (火)

遊園地にて・「氷島」メモ2/面白い!中也の日本語

(前回からつづく)

 

「氷島」2番目の詩「遊園地(るなぱーく)にて」は
「詩篇小解」によれば「恋愛詩」のグループになりますが
配列にしたがってここで読むことにしました。

 

◇

 

遊園地(るなぱーく)にて

 

遊園地(るなぱーく)の午後なりき
楽隊は空に轟き
回転木馬の目まぐるしく
艶めく紅(べに)のごむ風船
群集の上を飛び行けり。

 

今日の日曜を此所に来りて
われら模擬飛行機の座席に乗れど
側へに思惟するものは寂しきなり。
なになれば君が瞳孔(ひとみ)に
やさしき憂愁をたたえ給うか。
座席に肩を寄りそいて
接吻(きす)するみ手を借したまえや。

 

見よこの飛翔する空の向うに
一つの地平は高く揚り また傾き 低く沈み行かんとす。
暮春に迫る落日の前
われら既にこれを見たり
いかんぞ人生を展開せざらむ。
今日の果敢なき憂愁を捨て
飛べよかし! 飛べよかし!

 

明るき四月の外光の中
嬉嬉たる群集の中に混りて
ふたり模擬飛行機の座席に乗れど
君の円舞曲(わるつ)は遠くして
側へに思惟するものは寂しきなり。

 

(青空文庫「氷島 萩原朔太郎」より。新かな・新漢字に改めました。ブログ編者。)

 

◇

 

2度現われる「側へ」は
「カタエ」または「ソバエ」と発声しますが
現代かな遣いでも「へ」と記して「エ」と読む習いですから
「へ」を生かして表記しました。

 

原詩を歴史的かな遣い(歴史的表記)で読みたい場合には
青空文庫を参照してください。

 

◇

 

この遊園地が東京のものであることは
この詩が作られた昭和初期に
「模擬飛行機」を有する遊園地が
前橋にはなかったであろうと想像されることからの推測ですが
あるいはこの推測は間違っているかもしれません。

 

遊園地が東京のものか
前橋のものであるか。
ここでもそれは大きな問題ではないでしょう。

 

◇

 

「詩篇小解」に、
我れの如き極地の人、氷島の上に独り住み居て、そもそも何の愛恋ぞや。過去は恥多く悔多し。これもまた北極の長夜に見たる、侘しき極光(おーろら)の幻燈なるべし。
――とあるのは
「自序」に、
著者の過去の生活は、北海の極地を漂い流れる、侘しい氷山の生活だった。その氷山の嶋嶋から、幻像(まぼろし)のようなオーロラを見て、著者はあこがれ、悩み、悦び、悲しみ、且つ自ら怒りつつ、空しく潮流のままに漂泊して来た。
――とあるのに呼応しています。

 

◇

 

恋もまた
それが遠い過去にあったものであっても
北極の夜に見たオーロラの幻のようなものであったのです。

 

その幻を
あこがれ悩み悦び悲しみ怒りつつ
むなしくも漂流してきたというのは
詩人が永遠の漂泊者であり
どこにも帰るべき家郷を持たない「ハイマート・ロス(故郷喪失者)」であることの自覚の表明です。

 

「自序」がそのように表明していることを
一つひとつの詩は
手を変え品を変え歌います。

 

◇

 

「遊園地にて」でも
幻のオーロラが歌われました。

 

◇

 

なになれば君が瞳孔(ひとみ)に
やさしき憂愁をたたえ給うか。
(どうして君はその瞳にやさしい憂愁の表情を浮かべたのでしょうか。)

 

座席に肩を寄りそいて
接吻(きす)するみ手を借したまえや。
(座席に肩を近づけてキスする手を貸してごらん。)
――には
恋が頂点に達しようとした瞬間があったことが歌われました。

 

◇

 

われら既にこれを見たり
――の「これ」が何を指示するものか。

 

地平が高くあがりまた傾き低く沈み行こうとする
その落日を前にして見たのが「これ」のようですが。

 

側へに思惟するものは寂しきなり。
――に求められるのでしょうか。

 

◇

 

いかんぞ人生を展開せざらむ。
(どうにかして人生を展開できないものか。)

 

今日の果敢なき憂愁を捨て
(今日のはかない憂愁を捨て去り)
飛べよかし! 飛べよかし!
(飛べよ! 飛べよ!)
――には、しかし、この沈滞から
立ち上ろうとして自らを励ます詩人の肉声があります。

 

◇

 

にもかかわらず
もう一度、
側へに思惟するものは寂しきなり。
――と繰り返されてこの詩は閉じるのですから
ここに詩人の現在はあるといわねばならないでしょう。

 

◇

 

もう一息のところで
恋を追いやってしまうのは
詩人の思惟なのでしょうか。

 

◇

 

今回はここまで。

 

 

 

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

« 漂泊者の歌・「氷島」メモ1/面白い!中也の日本語 | トップページ | 乃木坂倶楽部・「氷島」メモ3/面白い!中也の日本語 »

「058中原中也の同時代/萩原朔太郎「氷島」論を読む」カテゴリの記事

コメント

るなぱあくは浅草に半年ほど存在した、日本で最初の遊園地ですよ。

どっかで読んだ覚えがありましたが、調べ切れませんでした。ありがとうございます。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 遊園地にて・「氷島」メモ2/面白い!中也の日本語:

« 漂泊者の歌・「氷島」メモ1/面白い!中也の日本語 | トップページ | 乃木坂倶楽部・「氷島」メモ3/面白い!中也の日本語 »