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2015年1月31日 (土)

茨木のり子の「ですます調」その2・伝達の意志

(前回からつづく)

 

意識してわかりやすくやさしく書こうとするもの、

ワクワクドキドキさせ飽きさせないもの。

――という狙いは

茨木のり子の詩作のポリシーでもあったようですが

そのポリシーは散文において

より著しく実現されているようです。

 

 

「うたの心に生きた人々」中の「与謝野晶子」の章では

たとえば、

 

東京へでてからの鉄幹はめざましい活躍をし、二十二歳のときには「亡国の音」という歌論を新聞に発表して、宮内省系の古くさい歌人をやっつけました。

 

――といった歯切れのよい文章によく出合います。

 

なんの変哲もない素朴な文章でありそうですが

この文の終わりの「やっつけました」という書き方なんか

なんの気取りもなく勿体(もったい)ぶらない

ぶっきらぼうでさえある口調が

はっきりきっぱりした輪郭を生み出しています。

 

 

このような文は

いくらでも見つけることができます。

 

 

大ぜいの子どもたちは、ときに垢じみ、ときにパリッとしていたのです。

 

家計も苦しく、バス代もお手伝いさんから借りてゆく日さえあったのに「お金なんかなんだ!」

という心の張りをもって、すこしも貧乏のかげや、“しみ”を見せませんでした。

 

すべて手仕事でしたから、一つのびょうぶを仕上げるにもたいへんなことだったのでしょう。

身なりなどかまっていられず、大奮闘でした。

 

シベリア鉄道は十四日間もかかり、ことばは通ぜず、列車ボーイからチップばかり請求され、

手ちがいもあってお金もとぼしくなり、パンとコーヒーだけで最後の二日を過ごし、

へとへとになってパリにたどりつきました。

 

まさしく黄金の釘を、はっしと打って去った人でした。

 

(いずれもちくま文庫「うたの心に生きた人々」(所収「与謝野晶子」より。)

 

――といった具合です。

 

 

ここに「技」は

あるのではないか。

 

 

言葉をひねくりだそうとしていない。

 

最適の言葉を選ぼうとしてひねくりだしそこね

ぼやかしてしまうことへの恐れや反発があり

そうならないように注意を払う意識を働かしているのではないか。

 

選びに選んだ言葉が

かえって表現を限定し

スルリと肝腎要(かんじんかなめ)をぼかしてしまうような言葉遣いが

たとえば「美しい日本語」などにはよく見られることで

それを「言葉の綾」などといって称揚する傾向があることを

茨木のり子は排撃するのです。

 

そうしようとして

後にもどってはじめに浮んだ言葉を

そのまま書くというようなことを

意識している術であるようにさえ思えてきます。

 

 

そういう文ばかりでないことは勿論ですが

やさしくわかりやすくはっきりくっきりした文章を書こうとするねらいは

入門書、案内書である場合ですから

特に目立つということなのかもしれませんが

明らかにターゲット(読者)への伝達の意志(配慮)があります。

 

伝達を表現より大事にしていることでもあります。

 

 

そしてターゲットは

言葉そのものの面白さに目が開きかかった

青少年男女であり

そうでなくとも

言葉そのものを熟読玩味しようとする成年や老年までをも含みますから

それはインテリゲンチャーばかりではないのです。

 

 

これを文体と呼ぶならそう呼んでいいのですが

「高村光太郎」章中の「『智恵子抄』の背景」の終わりでは

智恵子が狂気を発症し死に至るまでを描き

あいまいさをみじんも残さないこの文体が

光太郎の心をけざやかにくっきりと浮き彫りにする言葉遣いが

息をのむように迫ってきます。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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