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2015年2月20日 (金)

茨木のり子の「ですます調」その11・現代詩巨人への糸口

(前回からつづく)


茨木のり子が「うたの心に生きた人々」の山之口貘を案内する中で

金子光晴を何度も呼び出して

二人の詩人の「なさぬ仲」といってもよい関係を明らかにしますが

茨木本人の金子光晴との出会いも

詩という文学のフィールドばかりでなく

現実の生活の中での親交に及んだという点で特別です。



「うたの心に生きた人々」の中ではしかし

その親交について触れられることはありません。


あくまで金子光晴という詩人の詩心(うたの心)を追い

その生涯を追うにとどめ

私的な交流を記述しません。


そうすることによって

金子光晴という詩人を客観的に位置づけようとしたのでしょう。


詩人の評伝の輪郭(りんかく)を鮮明に保ちながら

詩人の「うたの心」に迫るために

茨木は私的交流を持ち出さなかったのです。



「うたの心に生きた人々」の金子光晴の章は、

1 風がわりな少年

2 中退の青春

3 山師のころ

4 第一回の外遊

5 詩集「こがね虫」

6 海外放浪の長い旅

7 むすこの徴兵をこばむ

8 戦後になって

――という構成で書かれていますが

この、日本現代詩の巨人といって過言ではない詩人の足跡を

ここで詳しく辿ることはできません。


その糸口になるようなことを探してみますと――。


山之口貘の章で

折につけて現れる詩人の妻・森三千代と光晴の

「ややこしいような」「超俗的な」関係を

茨木のり子はどのように記述しているかに焦点を絞って

読んでみることにしましょう。



今は巨大な詩塊(しかい)を前にして

その入口を見つけるような作業が必要ということなのですが

最終章「戦後になって」で触れられている

詩集「人間の悲劇」(1952年)を読むことができるには

このステップが役に立つことでしょう。



その前に

金子光晴の詩を一つでもよいから

目を通しておくことにしましょう。



金子光晴は

生涯にわたって色々な詩を残しましたが

戦後に書かれたこの詩集を

茨木のり子が金子光晴の項の終わりで紹介しているのは

特別の意味が込められていそうです。


それは「うたの心に生きた人々」の巻末でもありますし

この文庫の末尾に「人間の悲劇」の記述を置いたのには

茨木のり子のメッセージが込められたことが想像できます。


「――答辞に代えて奴隷根性の歌――」として

同書に引用された詩を読んでおきましょう。



奴隷(どれい)というものには、

ちょいと気のしれない心理がある。

じぶんはたえず空腹でいて

主人の豪華な献立のじまんをする。


奴隷たちの子孫は代々

背骨がまがってうまれてくる。

やつらはいう。

『四足(よつあし)で生れてもしかたがなかった』と


というのもやつらの祖先と神さまとの

約束ごとと信じこんでるからだ。

主人は、神さまの後裔(こうえい)で

奴隷は、狩犬の子や孫なのだ。


だから鎖でつながれても

靴で蹴られても当然なのだ。

口笛をきけば、ころころし

鞭の風には、目をつむって待つ。


どんな性悪(しょうわる)でも、飲んべでも

蔭口たたくわるものでも

はらの底では、主人がこわい。

土下座(どげざ)した根性は立ちあがれぬ。


くさった根につく

白い蛆(うじ)。

倒れるばかりの

大木のしたで。


いまや森のなかを雷鳴(らいめい)が走り

いなずまが沼地をあかるくするとき

『鎖を切るんだ。

自由になるんだ』と叫んでも、


やつらは、浮かない顔でためらって

『御主人のそばをはなれて

あすからどうして生きてゆくべ。

第一、申訳のねえこんだ』という。

         ――答辞に代えて奴隷根性の歌――


(「うたの心に生きた人々」(ちくま文庫)より。)



「奴隷」とは

忘れられてしまったような言葉のようですが

よく考えれば(よく考えなくとも!)

世の中に今も充満している現実ですよね。



今回はここまで。

 

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