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2015年2月22日 (日)

茨木のり子の「ですます調」その12・金子光晴のファムファタル

(前回からつづく)

 

茨木のり子が金子光晴のことを書いたものは幾つかあり

中でもまとまった著作は

「金子光晴――その言葉たち」(「ユリイカ」1972年5月初出)や

「最晩年」(「現代詩手帖」1975年9月初出)です。


これらはいずれも

「茨木のり子集 言の葉2」(ちくま文庫)で読めます。

 

ほかにも金子光晴の名は

折りあるごとに登場しますが

これらのほとんどが「ですます調」でないのは

比較的後期の著作ということになります。

 

 

「金子光晴――その言葉たち」は

月刊雑誌「ユリイカ」の求めに応じた書き下ろしですが

十分な時間を与えられない不満を述べながらも

冒頭から力のこもった展開で

金子光晴へのありったけのオマージュの中に

茨木の自在な眼差しが飛び交います。

 

これまた「入門書」と呼んでよい著作ですが

「である調」で書かれ

冒頭の導入部などはさながら密度の高い散文詩のようです。

 

 

「うたの心に生きた人々」(1967年)が

詩の初心者向けに書かれたことと「ですます調」であることは

意図されたことに違いありませんから

読み手はいつも心の中をまっさらにして

頭の中の知識もゼロにして読むことを許容されています。

 

ゆったりとか構えることなく読んでいるうちに

光晴のファムファタル(運命の女)といってよい森三千代は

山之口の物語のなかに

まずはさりげなく登場しました。


 

新しい生活のスタートをきりましたが、アパートにはなにもなく、正式の仲人になっていた金子光晴、三千代夫妻

見かねて、自分の家のちゃぶ台やら、こまごまとした炊事道具を運びました。

 

――というのは、

さんの結婚を追った第2章「求婚の広告」のくだりです。

 

 

金子光晴と森三千代とのなれそめは

「金子光晴」の第5章「詩集『こがね虫』」で

次のように記述されます。

 

 

これまでにも金子光晴は『人間』『日本詩人』などの同人詩誌にも関係していたのですが、

こんどまた新しく『風景』という詩誌をだそうということになりました。

 

女性の同人もふたりはいることになり、

「ええ? ふたりも!」

といってみな、大いにはりきりました。

 

ひとりの女性は森三千代(もりみちよ)といい、東京女子高等師範(しはん)学校(いまのお茶の水女子大学)の

学生でした。

 

男女共学ではなかった当時、女高師というのは、女の最高学府にあたりました。

 

森三千代は、オリーブ色のはかまをはいて、勝ち誇ったような、健康そうな、カリカリしたむすめでした。

 

『風景』という同人雑誌は四号まででましたが、金子光晴と森三千代は、いつしか愛しあうようになっていました。

 

 

途中ですが今回はここまで。

金子光晴の代表作の一つを読んでおきましょう。

 

 

反対

 

僕は少年の頃

学校に反対だった。

僕は、いままた

働くことに反対だ。

 

僕は第一、健康とか

正義とかがきらいなのだ。

健康で正しいほど

人間を無情にするものはない

 

むろん、やまと魂(だましい)は反対だ

義理人情もへどが出る。

いつの政府にも反対であり、

文壇画壇にも尻を向けている。

 

なにしに生まれてきたと問わるれば、

躊躇なく答えよう。反対しにと。

ぼくは、東にいるときは、

西にゆきたいと思い、

 

きもの左前、靴は右左、

袴(はかま)はうしろ前、馬には尻をむいて乗る。

人のいやがるものこそ、僕の好物。

とりわけ嫌いは、気の揃(そろ)うということだ。

 

僕は信じる。反対こそ、人生で

唯(ただ)一つ立派なことだと。

反対こそ、生きていることだ。

反対こそ、じぶんをつかむことだ。

 

(「うたの心に生きた人々」より。)

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