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2015年2月 6日 (金)

茨木のり子の「ですます調」その6・山之口貘のユーモア

(前回からつづく)

 

「うたの心に生きた人々」で高村光太郎の次には

ボヘミアン詩人・山之口貘が取り上げられます。

 

その章を読み進めていて

あるところに差し掛かって

ドーッと笑いが爆発してしまう記述がいくつもあり

これはもちろん素材である山之口獏という詩人のもつユーモア(人間味)のせいであるけれど

これを書いている茨木のり子という詩人のユーモアでもあるな、

と感心するところを紹介しましょう。

 

ここで「ですます調」であることが

この爆笑を誘い出すものとなんらかの関係がありそうでいて

そうと断言できるものでもなく

でも「だ・である体」では伝わらない秘密があるように思えてなりません。

 

◇

 

山之口貘は

どのような詩を書いたのでしょうか。

 

茨木が紹介するのは

「自己紹介」という詩です。

 

◇

 

自己紹介


ここに寄り集まった諸氏(しょし)よ

先ほどから諸氏の位置に就いて考えているうちに

考えている僕の姿に僕は気がついたのであります。

僕ですか?

これはまことに自惚(うぬぼ)れるようですが

びんぼうなのであります

 

◇

 

第1詩集「思弁の苑」は

1938年、貘さん34歳のときに出版され

その中にあるのがこの「自己紹介」です。

 

ついでに「処女詩集」という題の作品も読んでおきましょう。

 

◇

 

処女詩集

 

『思弁の苑』というのが

ぼくのはじめての詩集なのだ

その『思弁の苑』を出したとき

女房の前もかまわずに

こえはりあげて

ぼくは泣いたのだ

あれからすでに十五、六年も経っただろうか

このごろになってはまたそろそろ

詩集を出したくなったと

女房に話しかけてみたところ

あのときのことをおぼえていやがって

詩集を出したら

また泣きなと来たのだ

 

(「うたの心に生きた人々」より。)

 

◇

 

なんの説明もいらない詩は

ただ味わわれることを待っているだけです。

 

◇

 

山之口貘(1903~1963)は

沖縄出身の「貧乏詩人」として広く知られていますが

この詩は自らそれを宣言しアピールした詩ということになります。

 

貧乏であることを

人からあれやこれやと聞かれるまえに

どうせ聞かれることになるものなら

こちらから宣言しちゃったほうが後々スムーズにゆくだろう

――という幾分か諧謔(かいぎゃく)も混ざるような内容ですが。

 

◇

 

茨木が追うのは

貧乏であることからくる苦労とか惨状とかであるよりも

「貘さん」として親しまれた詩人の精神性であることに違いはなく

それはつまりは

詩人・山之口獏の詩そのものにほかなりません。

 

詩人の生涯を追いかけながら

詩人の作る詩の生まれる根源(源泉)を探って

詩とは何かみたいなことも考えていきます。

 

◇

 

1 ルンペン詩人

2 求婚の広告

3 貘さんの詩のつくりかた

4 ミミコの詩

5 沖縄へ帰る

6 精神の貴族

――という構成の内容を紹介できるものではありませんが

 

この詩「処女詩集」に登場する女房(貘さんの妻の静江さん)の実家に疎開したときのこと。

 

このときのことを記述する

茨木のり子の「ですます調」は

貘さんのユーモア(人間味)の呼吸が乗り移ったかのような口ぶりになり

貘さんの世界の中に没入したのか

貘さん自身が案内しているかのような面白みがあります。

 

◇

 

昭和19年、生まれたばかりの長女に「泉」と命名

いつしか「ミミコ」と呼ばれるようになる赤ん坊を

はじめて見る貘さんの妻の家族。

 

その歓迎ぶり。

 

それを記述する茨木のり子の筆致――。

 

◇

 

途中ですが

今回はここまで。

 


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