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2015年2月 6日 (金)

茨木のり子の「ですます調」その6・山之口貘のユーモア

(前回からつづく)

 

「うたの心に生きた人々」で高村光太郎の次には

ボヘミアン詩人・山之口が取り上げられます。

 

その章を読み進めていて

あるところに差し掛かって

ドーッと笑いが爆発してしまう記述がいくつもあり

これはもちろん素材である山之口獏という詩人のもつユーモア(人間味)のせいであるけれど

これを書いている茨木のり子という詩人のユーモアでもあるな、

と感心するところを紹介しましょう。

 

ここで「ですます調」であることが

この爆笑を誘い出すものとなんらかの関係がありそうでいて

そうと断言できるものでもなく

でも「だ・である体」では伝わらない秘密があるように思えてなりません。

 

 

山之口貘は

どのような詩を書いたのでしょうか。

 

茨木が紹介するのは

「自己紹介」という詩です。

 

 

自己紹介


ここに寄り集まった諸氏(しょし)よ

先ほどから諸氏の位置に就いて考えているうちに

考えている僕の姿に僕は気がついたのであります。

僕ですか?

これはまことに自惚(うぬぼ)れるようですが

びんぼうなのであります

 

 

第1詩集「思弁の苑」は

1938年、貘さん34歳のときに出版され

その中にあるのがこの「自己紹介」です。

 

ついでに「処女詩集」という題の作品も読んでおきましょう。

 

 

処女詩集

 

『思弁の苑』というのが

ぼくのはじめての詩集なのだ

その『思弁の苑』を出したとき

女房の前もかまわずに

こえはりあげて

ぼくは泣いたのだ

あれからすでに十五、六年も経っただろうか

このごろになってはまたそろそろ

詩集を出したくなったと

女房に話しかけてみたところ

あのときのことをおぼえていやがって

詩集を出したら

また泣きなと来たのだ

 

(「うたの心に生きた人々」より。)

 

 

なんの説明もいらない詩は

ただ味わわれることを待っているだけです。

 

 

山之口(1903~1963)は

沖縄出身の「貧乏詩人」として広く知られていますが

この詩は自らそれを宣言しアピールした詩ということになります。

 

貧乏であることを

人からあれやこれやと聞かれるまえに

どうせ聞かれることになるものなら

こちらから宣言しちゃったほうが後々スムーズにゆくだろう

――という幾分か諧謔(かいぎゃく)も混ざるような内容ですが。

 

 

茨木が追うのは

貧乏であることからくる苦労とか惨状とかであるよりも

「貘さん」として親しまれた詩人の精神性であることに違いはなく

それはつまりは

詩人・山之口獏の詩そのものにほかなりません。

 

詩人の生涯を追いかけながら

詩人の作る詩の生まれる根源(源泉)を探って

詩とは何かみたいなことも考えていきます。

 

 

1 ルンペン詩人

2 求婚の広告

3 貘さんの詩のつくりかた

4 ミミコの詩

5 沖縄へ帰る

6 精神の貴族

――という構成の内容を紹介できるものではありませんが

 

この詩「処女詩集」に登場する女房(貘さんの妻の静江さん)の実家に疎開したときのこと。

 

このときのことを記述する

茨木のり子の「ですます調」は

さんのユーモア(人間味)の呼吸が乗り移ったかのような口ぶりになり

さんの世界の中に没入したのか

さん自身が案内しているかのような面白みがあります。

 

 

昭和19年、生まれたばかりの長女に「泉」と命名

いつしか「ミミコ」と呼ばれるようになる赤ん坊を

はじめて見る貘さんの妻の家族。

 

その歓迎ぶり。

 

それを記述する茨木のり子の筆致――。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 


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