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2015年3月25日 (水)

茨木のり子「詩のこころを読む」を読む・谷川俊太郎の「かなしみ」

(前回からつづく)

 

茨木のり子が「詩のこころを読む」(岩波ジュニア新書)を上梓したのは

1979年ですから52歳のときです。

 

自ら言う「峠」の年齢ということになりますが

戦後に詩作をはじめて

すでに30余年の歳月が流れていました。

 

30年以上も詩を書いてきたということを

詩を書かない人が想像するには

自分で続けている趣味だとか習い事だとか習慣だとかと比べて

少しは類推できることかもしれません。

 

社会人なら

自分の仕事一つを思い浮かべてみれば

想像できることかもしれません。

 

30年も同じことを続ければ

どんなことでも熟練の域に達するものです。

 

 

詩とビジネスを同じ土俵に乗せるわけではありませんが

熟練するということにかかる時間の関係には

詩であれビジネスであれ左官の仕事であれ

共通するものがあることに間違いありません。

 

円熟の目利きである詩人・茨木のり子が

第1章にあたる「生まれて」の冒頭(この本の巻頭)に案内するのは

日本現代詩のトップランナー・谷川俊太郎です。

 

谷川俊太郎の名は

知らない人はいないといってよいほど広く知られていますが

「詩のボクシング」とか「ことば遊び」とか「合唱曲の作詞」とか

マルチタレントぶりを知っていても

詩を読んだ人は案外多くないのかも知れません。

 

「ネロ」だとか「二十億光年の孤独」だとかのタイトルを聞いたことがあっても

これらの詩をじっくりと読み

ほかの詩にも目を通した人は少ないのが実情のようです。

どんな傾向の詩を書く詩人であり

どのような来歴があり

どのように詩人として出発し現在に至っているかなどを知っていても

詩そのものをじっくり読んだ人はそう多くはないというのが実情のようです。
 

 

そうであっても

現代詩人の中で最もポピュラーな人気を得ていることは確かです。

 

詩のコーナーを設けているいるような大きな書店では

谷川俊太郎の詩集が犇(ひし)めいています。

 

 

最も知名度の高い詩人ということを

茨木のり子も意識したからか

詩の近しい仲間であり

住まいも近くであったからか

「詩のこころを読む」の1番目に選んだ理由は納得がいくものです。

 

「かなしみ」は

デビュー作「二十億光年の孤独」に収められています。

 

 

かなしみ

 


あの青い空の波の音が聞こえるあたりに

 

何かとんでもないおとし物を

 

僕はしてきてしまったらしい

 

 

 

透明な過去の駅で

 

遺失物係の前に立ったら

 

僕は余計に悲しくなってしまった

 

 

 

 

わずか6行2連の短詩ですが

こういう詩を書くのが谷川俊太郎かなどと

まずはグンと詩(人)が近づいてくるのを感じられるのも

一つには茨木のり子の眼差しの鋭さからくるものに気づきます。

 

独力でこういう詩に出会うまでには

多くの時間がかかることでしょう。

 

 

初めて読んだとき

あの青い空の波の音が聞こえるあたり――という「あの」にぎくりとさせられますが

自分にも「そこ」が見えるような気がすれば

この詩のよい読み手になったというものです。

 

じっとして青空を眺めるなんてことを

遠い昔の少年(少女)時代にしたことを

この詩は懐かしくも思い出させてくれますが

その時感じたものがこの詩のような気持ちであったことをも

この詩は思い出させてくれるようなところがあります。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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