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2015年3月28日 (土)

茨木のり子「詩のこころを読む」を読む・谷川俊太郎の「かなしみ」その3

(前回からつづく)

 

茨木のり子が谷川俊太郎の「かなしみ」を読みながら援用するのが

同じ作者の第2詩集「六十二のソネット」中の「41」という作品。

 

茨木のり子が引用するのは

冒頭の2行ですが

ここでは「41」全行に目を通しましょう。

 

◇

 

41

 

空の青さをみつめていると

私に帰るところがあるような気がする

だが雲を通ってきた明るさは

もはや空へは帰ってゆかない

 

陽は絶えず豪華に捨てている

夜になっても私達は拾うのに忙しい

人はすべていやしい生まれなので

樹のように豊かに休むことがない

 

窓があふれたものを切りとっている

私は宇宙以外の部屋を欲しない

そのため私は人と不和になる

 

去ることは空間や時間を傷つけることだ

そして痛みがむしろ私を責める

私が去ると私の健康が戻ってくるだろう


(角川文庫「現代詩人全集 第10巻 戦後Ⅱ」より。)

 

◇

 

多くの詩人が

「空」へ特別な関心を寄せることに触れて

茨木のり子は谷川俊太郎もその例にもれず

自らの出生(生存)の探求へと向かい

「青い空」を幾つか歌っていることに注目しました。

 

その一つがこの詩。

 

冒頭の

空の青さを見つめていると

私に帰るところがあるような気がする

――がここに呼び出されます。

 

◇

 

この2行が呼び出されのは

「かなしみ」の青い空との類縁を指摘するためにですが

「帰るところ」としての空というテーマともクロスして

「かなしみ」という詩が扱う生存(または死)は

「帰るところ」との類縁に気づくことを促しているようです。

 

◇

 

生まれいずるところは

死して帰るところとおなじところなのである

――などと、身も蓋(ふた)もないようなことを

詩(谷川俊太郎)や茨木のり子が言っているものではありません。

 

◇

 

茨木のり子が持ち出す

小さな子の引例は

ここでもあざやかです。

 

◇

 

小さな子供が自分の家にいるのに「お家へ帰ろう、お家へ帰ろう」と、

じだんだふんで泣いたりすることがあって、おとなは笑いますが、

幼ければ幼いだけ、郷愁(ノスタルジー)と名づけられるこの思いは鮮烈なのかもしれません。

 

◇

 

谷川俊太郎初期の詩の要素の一つに

「郷愁=ノスタルジー」を見い出し

そのことをさりげなく

幼い子供がわけもなく「帰ろう帰ろう」と泣いて聞き分けのないひとときの例を重ねます。

 

◇

 

幼ければ幼いだけ、郷愁(ノスタルジー)と名づけられるこの思いは鮮烈――。

 

少年(青年)が見詰めている青空は

郷愁=ノスタルジーの鮮烈さで

激しく少年(青年)を突き動かしているようです。

 

◇

 

「かなしみ」は谷川俊太郎10代の作品。

 

若い時でなければ書けないまじりっけなしの純粋さを湛(たた)えている

――と茨木は評しますが

この純粋さの由来が

あたかも「お家に帰ろう」と駄々をこねて泣く子供の

「存在の不安」と同質のものであるとでも言いたげで

そうは断言しないところがほがらかです。

 

◇

 

「かなしみ」も「六十二のソネット」の「41」も

傾向として同じ流れの中の詩であり

すべてではないのはもちろんですが

第1詩集「二十億光年の孤独」も

第2詩集「六十二のソネット」も

重なったテーマを歌っている部分があることを

こうして知ることができます。

 

◇

 

今回はここまで。

 

◇

 

かなしみ

 

あの青い空の波の音が聞こえるあたりに

何かとんでもないおとし物を

僕はしてきてしまったらしい

 

透明な過去の駅で

遺失物係の前に立ったら

僕は余計に悲しくなってしまった

 

 

 

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