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2015年3月11日 (水)

現代詩の証言・金子光晴の「こがね虫」その8「鴛鴦の巻」

(前回からつづく)

 

「金亀子」の章の次には

「風雅帖」という章があり

「五月雨の巻」

「鴛鴦の巻」

「紅葉の巻」という3連作詩が配置されています。

 

中の「鴛鴦の巻」を読みましょう。

 

 

「風雅帖」には序詞があり

この3作品のすべてにかかっていますから

まずそれを読みます。

 

「金亀子」末尾のコーラスと同じ位置で

詩本体を案内し進行役を果たす口ぶりのためにか( )でくくられたそれは

「お囃子(はやし)」のようでもありますが

詩人が案内するようでもあります。

 

(みめかたち麗かな者ばかり此世にあれ。

軽やかな管弦に、絲遊の一日を戯れてあれ。

悲も、痛も強からざれ。

例えば恋する身も、

花鳥絵草子の夢であれ。)

 

これらコーラスが

10字下げでパーレン( )にくくられ

章全体の序詞になっているのです。

 

 

鴛鴦の巻

 

おお、陰惨な夜の雨は、

くらやみの水辺の朱欄の廻廊をこめて降りつづく。

花菖蒲の蔭の木橋に、

悽艶な嬢子と少年は今めぐりあう。

 

悔恨、嘆き、歔欷(きょき)が暗夜をこめ、

雪洞(ぼんぼり)の顔はうっとり照らしあう。

 

忽ちゆれる簪、振袖はそのまま鴛鴦の姿となり、

二つの花燈籠のように静に水面を滑りでる。

明い粉黛の眩(まど)わしに、

こまやかな霧雨はふりしぶき、

杜若のしげり重なるあいだを潜ってゆく。

 

瑯玕洞(ろうかんどう)の扉は次々に開け、

暗い鏡の間は、

いろどる炎をうけて驚倒する。

 

(昭森社「金子光晴全集1」より。新かなに変えたほか、適宜、ルビを削除し又は加えました。編者。)

 

 

「鴛鴦(えんおう)」は「鴛鴦の契り」の故事で有名なオシドリ。

今では、仲のよい夫婦のシンボルになっています。

 

「歔欷(きょき)」はすすりなき。

すでに「三月」で使われているのを読みました。

 

「瑯玕洞」は、「瑯玕(ろうかん)」は「玉(ぎょく)に似た美しい石。また珠(たま)のような実の成る樹木の名、
また美しい緑色の竹の名」の意味を持ち、古代中国・山東省に地名が残る景勝地らしい。

 

出典・題材が何にあるのか

明らかでありませんが

夜の「朱欄の廻廊」に雨が降りこめているのですから

この詩の背景にある「都雅(みやび)」は

わび・さびの日本美ではなく

東方=中国のものであることのようです。

 

 

「悽艶な」嬢子と少年が

その場所で巡り合うのです。

 

男女が巡り合った初めから

悔恨、嘆き、歔欷(きょき)の中にあり

すでにいわくありげなのは

女性が「悽艶な」ところに由来するようですが

そのことは定かでありません。

 

男女はいつしか鴛鴦の姿と化し

花燈籠となって

杜若(かきつばた)の群生する水面を分け入って行くのです。

 

 

今回はここまで。

 

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