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2015年5月28日 (木)

金子光晴「落下傘」の時代・茨木のり子の「最晩年」その2

(前回からつづく)

 

金子光晴は戦争が終わってから

立て続けに詩集を幾つか刊行します。

 

「落下傘」(1948年)

「蛾」(同)

「女たちのエレジー」(1949年)

「鬼の児の唄」(同)です。

 

読んでみないことには

これらの詩集の内容を比較することはできませんが

「落下傘」は日中戦争がはじめられ太平洋戦争が終わるまでの

戦争真っ只中に書かれた詩を集めたものであり

しかも戦争を真っ向から批判しているところに

めまいを覚えるような斬新さ(鮮烈さ)があります。

 

 

すべて発表の目的をもって書かれ

実際にこの詩集のおよそ半分が発表されたと詩人自らが「跋」に記す詩篇は

象徴主義の詩法が色濃いものとはいえ

よくも権力の網の目にかからないでいられたものと

驚かざるを得ません。

 

(同じ「跋」に、「犬等5篇は、雑誌社から返された。」と記したのは、自主規制へのイロニーなのでしょうか。)

 

 

茨木のり子はこのあたりのところを

見つかれば死刑という状態でこれらの詩を書きついでいました。

――とズバリとシンプルにコメントしています。

(「詩のこころを読む」)

 

 

詩集タイトルが

鮫でもなく蛾でもなく落下傘とされたのは

戦後だからできたことなのかもしれませんが

詩篇単体には「落下傘」もあり

「真珠湾」もあったのですから

目をつけられなかったはずがありません。

 

詩集題を「落下傘」とネーミングしたのには

ほかのタイトルにしなかった理由があったからのことでしょう。

 

 

共同体など信じていなかったのが金子さんではなかったか。

――と茨木のり子が「最晩年」で記した自身の感慨(認識)は

多くの金子光晴の読者の感慨(認識)でもあったはずでしょう。

 

もしも茨木のり子によるこの記述がなかったら

その感慨(認識)は

ずっとそのままであり続けていたのかもしれない。

 

そのことを感じて

茨木のり子のこの記述は残されたのですから

やっぱり感受性の詩人です。

 

感受性とは勇敢なことです。

 

歯に衣を着せず

歯切れのよいことです。

 

 

というわけですから

詩集「落下傘」からもう1篇を読みたくなりました。

 

「湾」は

「真珠湾」に続き詩集の3番目に配置されています。

 

 

 

 

ピストルを食べよう。

春の早蕨(さわらび)のような、

 

風は爽やかに

湾を吹いて、

漣立つ

光はうつらうつら。

君よ。きょうはなにごともなしというか。

心は凪ぎ

世はやすらけく

幸福ゆえに、時はひまどるとおもうのか。

 

とどろきをきこう。

さあ、目をとじて、

 

蒼穹の奥の

いずくのはてにか

巨砲巨艦がむらがり立ち

天に朝するそのもの音を。

 

 

君よ。

ここにあるものは、もはや風景ではない。

それは要塞。

 

光でいぶる灌木林のかげに隠見する

島嶼(とうしょ)は、布陣。

地平は、音のないいかずち、

砲口の唸(うなり)で埋まる。

 

もはや、戦場ならぬ寸土もない。

一そよぎの草も

動員されているのだ。

 

地を這う虫にも

死と破滅が言渡される。

 

ここにある分秒は

刻々の対峙なのだ。

 

なんというきびしい

いたましい景観だ。

 

文明と権力を一元した

息もつまるこの静謐。

 

君よ。それでも猶、

きょうを無為だというか。

 

(中央公論社版「金子光晴全集」第2巻より。「新かな」に変え、適宜、ルビを加えました。編者。)

 

 

ここに歌われる風景を

共同体の風景を思い描きながら読むことは

それほど無理なことではなさそうです。

 

すでにその風景は失われ

要塞と化していますが。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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