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2015年5月 3日 (日)

金子光晴「落下傘」の時代・「落下傘」その1

(前回からつづく)

 

詩集「落下傘」には

詩集題と同じタイトルの詩「落下傘」があり

「短章三篇」の4つ前に配置されています。

 

数えてみれば計22篇ある詩の

7番目が「落下傘」で

11番目が「短章三篇」で

22番目が最終詩である「寂しさの歌」ということになります。

 

 

「落下傘」に制作年は記されていませんが

「短章三篇」の1936、7年(昭和11、12年)よりも後に作られたであろうことは

落下傘という言葉自体から推測できることでしょう。

 

落下傘は

戦争が本格化したことを物語るからですが

詩の象徴性ということを考えれば

この推測の根拠は意味のないことかもしれません。

 

そうだとしても

落下傘も「短章三篇」の弾丸も

戦場そのものですし

戦場が近くにあることは明らかですし

戦場そのものの形象(イメージ)です。

 

 

詩人が実際に落下傘をどこかで見たことがあったか。

 

なかったとしても

落下傘が「短章三篇」の「弾丸」と同じく

詩人の「化身」であるかのように

自在に戦場を行き来する存在であることには瞠目(どうもく)せざるを得ません。

 

 

落下傘

 

 

落下傘がひらく。

じゅつなげに、

 

旋花(ひるがお)のように、しおれもつれて。

 

青天にひとり泛びただよう

なんというこの淋しさだ。

雹や

雷の

かたまる雲。

月や虹の天体を

ながれるパラソルの

なんというたよりなさだ。

 

だが、どこへゆくのだ。

どこへゆきつくのだ。

 

おちこんでゆくこの速さは

なにごとだ。

なんのあやまちだ。

 

 

 この足のしたにあるのはどこだ。

……わたしの祖国!

 

さいわいなるかな。わたしはあそこで生れた。

 戦捷の国。

父祖のむかしから

女たちの貞淑な国。

 

もみ殻や、魚の骨。

ひもじいときにも微笑(ほほえ)む。

躾(しつけ)。

さむいなりふり。

有情(あわれ)な風物。

 

 あそこには、なによりわたしの言葉がすっかり通じ、かおいろの底の意味までわかりあう、

 額の狭い、つきつめた眼光、肩骨のとがった、なつかしい朋党達がいる。

 

「もののふの

たのみあるなかの

酒宴かな」

 

洪水(でみず)のなかの電柱。

草ぶきの廂にも

ゆれる日の丸。

 

さくらしぐれ。

石目(きめ)あたらしい

忠魂碑。

義理人情の並ぶ家庇。

盆栽。

おきものの富士。

 

 

ゆらりゆらりとおちてゆきながら

目をつぶり、

雙つの足うらをすりあわせて、わたしは祈る。

 「神さま。

 どうぞ。まちがいなく、ふるさとの楽土につきますように。

 風のまにまに、地上にふきながされてゆきませんように。

 足のしたが、刹那にかききえる夢であったりしませんように。

 万一、地球の引力にそっぽむかれて、落ちても、落ちても、着くところがないような、悲しいことになりませんように。」

 

(中央公論社版「金子光晴全集」第2巻より。「現代かな」に変えました。編者。)

 

 

「二」の、

わたしの祖国!

――と

さいわいなるかな。わたしはあそこで生れた。

――という詩行に導かれて歌い出されるこの国の風景・風物の根本は

やがては「寂しさの歌」の寂しい精神のうぶすなとしてとらえられるものですが

ここ「落下傘」では

「一」や「三」で

落下傘(という表徴)のたよりなさ、足のつかない感覚によって現れます。

 

たよりなさが

混じり気なく

より鮮烈に

ゆらりゆらりと

落ちてゆくところもわからない不安の象徴として描かれています。

 

 

なんという

どこへ

なにごとだ

なんの

――という畳みかけ(一)は

神様への祈りで終わるしかありません。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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