金子光晴「落下傘」の時代・「鷹」その2
(前回からつづく)
正覚坊(しょうがくぼう)はアオウミガメのことですが
大酒飲みの意味を持ちます。
◇
大酒のみが
海の藻くずにからまれ浮いたり沈んだりしているように
わが地球よ!
頭から血のぼろを浴びて、何度流転しなければならないのだ。
空で繰り広げられる死の恐怖を見上げて暮らす人々に
安堵はなく、まるでツンドラにでも起き伏しするようだ。
なぜ人は鷹を放したのだ。
その日から、人は天の高さを失った。
自分の放した猛鳥の影に脅えて、さすらうのだ。。
◇
分別というものを誰も持たない。
泥まみれの奴らが、爆弾で開けられた大穴の周りに集まり
殺人(むごたらしさ)の新兵器とばかりに楽しんでいる(図)。
血の滲んだ剥がれ雲よ。
剥がれ雲は、はぐれ雲にかなり近い雲でしょうか。
大きな雲から剥がれて、孤立した状態の雲か。
鷹の比喩ではなく
人間の比喩でしょうか。
◇
胃袋までもとりあげられて
呆然と
なすところをしらない人間よ。
(食べる元気も奪われて
自分を見失い
何をしてよいかわからないでいる人間よ)
◇
怖れる馬鹿があるか!
もともと、おまえたちがはじめたことじゃないか!
ふるえるな。
みっともない。
おまえたちが加担して、
人の夫や人の子を戦争に追いやったんじゃないか!
◇
おまえたちの手で空へ放たれて
すでに戻ることのできないのを
気づかないもの。
いたいけなもの。
鷹――。
◇
ヨーグルトかなにか乳酸のように
空を濁(にご)す。
鵟(のすり)だ!
隼(はやぶさ)だ!
◇
天翔(あまがけ)る鷹が
青空を汚していく。
空から
美しいものが消え失せ
鷹が飛ぶたびに
死が飛翔するように
詩人の眼には見えたのでしょう。
憤懣の詩です。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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