谷川俊太郎の14歳と金子光晴の三つの戦争/同時代について・2
(前回からつづく)
茨木のり子は
昭和初年に生まれた世代の典型でしたが
14歳の時に敗戦を迎えたのが
疎開世代と茨木のり子が呼ぶ谷川俊太郎です。
20歳が敗戦だった茨木のり子。
14歳が敗戦だった谷川俊太郎。
金子光晴は敗戦の年、50歳でした。
◇
自分の身に引き替えて
小学校高学年から中学、高校、大学2・3年生あたりまでの人生を考えれば
茨木のり子の無念さを少しくらいは想像できるでしょう。
14歳の時に敗戦を迎えた谷川俊太郎は
だから戦争の打撃はさほど大きくはなかったと言っては乱暴でしょうか。
成人が敗戦を経験したのと
少年(青年)が経験したのとの違いを比べて
その経験の深浅を単純に推しはかるのはナンセンスです。
それにしても
6歳も年長の茨木のり子からすれば
損傷された青春という点では
谷川俊太郎の打撃は軽度なものに見えて自然なことであったでしょう。
もちろん、そんなふうに発言しているわけではありませんが。
◇
荒廃した世相のなかで、
みんな打ちひしがれて、
しょぼくれて、
絶望的な詩ばかりあふれていた時、
谷川俊太郎はそんな世の中でもたしかに存在する、
自分のたった一回きりの青春を思うさま謳歌しました
――と茨木のり子が「詩のこころを読む」で谷川俊太郎を紹介したのは
そのような背景があってのことでしょう。
青春を謳歌する時間が
谷川俊太郎には残されていたのでした。
◇
1944年(昭和19) 12~13歳
都立豊多摩中学校(旧、府立第十三中学校)に入学する。帽子に付ける徽章は、もう金属製ではなくて、瀬戸物だった。カーキ色のスフのべらべらの制服を着て、ゲートルを巻かされた。
1945年(昭和20) 13~14歳
空襲が激しくなり、5月に東京山の手大空襲があった。友人と自転車で近所の焼け跡へ行き、焼死体を見る。7月、母とともに、その里である京都府久世郡淀町に疎開した。9月、京都府立桃山中学校に転学。
1946年(昭和21) 14~15歳
3月、東京の杉並の家に帰り、豊多摩中学校(のちの都立豊多摩高校)に復学。ベートーベンの音楽に感激して夢中で聴き始めた。
(岩波文庫「谷川俊太郎詩集」巻末年譜より。)
◇
谷川俊太郎の年譜から
敗戦前後の3年間をピックアップしてみると
こんなふうに記録されています。
谷川俊太郎の経験にも
戦争の影が及んでいます。
◇
金子光晴の場合はどうだったか。
それをきちんと見るには
全著作に当たってみなければなりませんが
いまとりあえず自伝「詩人」から拾うことができるところを拾っておきましょう。
◇
もともと、もらわれっ子であり、親たちの気まぐれの御相伴で、赤ん坊のときから、ちやほや祭りあげられたり、忘れたように放任されたりして、感情をもてあそばれてきたために、極端な得意と、奈落の淋しさうぃ味わされ、感じやすい少年になっていたうえ、日清戦争にうまれ、日露戦争を小学校の時に、さらに中学時代に第一次欧州大戦を経験したということは、その過剰な刺激のために、感性のささくれ立った子供を、異常性格にするに充分な条件であったかもしれない。
◇
自伝「詩人」の
まだ序章のうちにある中学校までの来歴を語る途中で
金子光晴はこのように振りかえっています。
別のところでも ――
◇
明治、大正、昭和と、三つの時代に跨って、僕は生きてきた。明治、大正、昭和の三時代の複雑な変転に添うて生きてきたことは、やはり問題で、僕の成長にも世相の変転相がからんでいて、一一にらみあわさなければわからないし、日清、日露の戦争のあいだに人となった人物ということを度外視しては、僕一個の人間を考えることができない。僕の感情の起伏の歴史は、戦争の好景気や、その反動、周囲の人間の気風に密接につながっているのだ。
(旺文社文庫「詩人」より。)
◇
数奇にして波乱万丈の人生を
具体的に詳細に回想する自伝の折々に
このような述懐がはさまれるのです。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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