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2015年7月 3日 (金)

茨木のり子「詩のこころを読む」を読む/谷川俊太郎の「愛」へ・その5

(前回からつづく)

 

 

 

よく読めば

 

「愛」に示されたイマージュの例示はほかにもあります。

 

 

 

塹壕(ざんごう)を古い村々に

 

空を無知な鳥たちに

 

お伽話を小さな子らに

 

蜜を勤勉な蜂たちに

 

世界を名づけられぬものに

 

――という詩行ですが、これらが、

 

いつまでも

 

どこまでも、や

 

むすばれている

 

たちきられている、や

 

そんなに

 

――などのルフラン(繰り返し)の中に置かれ

 

連で分割されない全行を

 

ブレス(息継ぎ)のヒマもなく

 

一気に読むことになるために

 

詩の塊(かたまり)にぶつかるような

 

濃密な時間を味わう仕掛けになります。

 

 

 

一語一語、一行一行は難解ではないけれど

 

一つ一つの結合が緊密にできているからか

 

これらの例示が詩の中に溶け込んでいて

 

しっかり読まないとイマージュを見失いがちになるほど滑らかなのは

 

まるでクレーの絵の構成そのもので

 

これも意図された技法の一つのようです。

 

 

 

比喩、メタファー、象徴などが洗練され

 

都会的、都市的なイメージを作り出す

 

これも新しさの一つでした。

 

 

 

 

 

 

谷川俊太郎は

 

日本美のなかに吸収されてしまう詩人ではない存在として登場したことが

 

これらのことからも理解できるのですが

 

茨木のり子は、

 

新緑のころ、窓々をあけはなち、

 

家中に風を通わせるように、

 

詩の世界でつぎつぎ窓をひらいていった

 

――とその新しさに言及します。

 

 

 

攘夷(じょうい)の名分で閉じた島国を

 

開国したようなものだった、と。

 

 

 

 

 

 

こうしてようやく

 

「寂しさの歌」と「愛」という二つの詩が双子座であると

 

茨木のり子が指摘する意味はじわじわと見えてきます。

 

 

 

 

 

 

「かなしみ」から「芝生」へ。

 

「芝生」から「愛」へ。

 

 

 

「詩のこころを読む」は

 

若者に向けて今から30数年前に書かれたものであるけれど

 

これから現代詩・戦後詩を読もうとしているすべての読者への扉の役割を

 

ますます大きくしている位置にあって

 

たとえば谷川俊太郎のこの詩3作への案内だけでも

 

この詩人を真芯に受け止める正確さは比類するものがありません。

 

 

 

海のように広がる現代詩の領域へ

 

スムースに誘導されていくことになります。

 

 

 

現代詩・戦後詩へのとっかかりの発条(ばね)として

 

安定し安心できるのは

 

茨木のり子の目利きの選択が大きいからですが

 

その上、

 

「かなしみ」「芝生」を読みながら

 

「愛」へたどり着く道のりに「寂しさの歌」を置いて

 

そのつながりを通過した(読んだ)という

 

(ここは繰り返すようですが、)

 

構成(プロセス)の手際(わざ)が冴えわたっているからでもあります。

 

 

 

 

 

 

「愛」は

 

「生きるじたばた」の章に配置され

 

この章は、

 

 

 

岸田衿子

 

牟礼慶子

 

黒田三郎

 

川崎洋

 

大岡信

 

工藤直子 

 

濱口國雄

 

岩田宏

 

石川逸子

 

金子光晴

 

谷川俊太郎

 

――という詩人が登場します。

 

 

 

「生きるじたばた」は第3章にあたりますが

 

これまで読んできたのは

 

この第3章の金子光晴「寂しさの歌」を起点に

 

つづく「愛」を読むために

 

 第1章にあたる「生まれて」冒頭の谷川俊太郎(「かなしみ」「芝生」)へ目を向け

 

谷川俊太郎の3作を読むという流れでした。

 

 

 

谷川俊太郎はこの本「詩のこころを読む」のトップに登場していることを

 

ここにきて気づいて

 

はじめあっと驚くのですが

 

すぐに成程(なるほど)と合点することになります。

 

 

 

 

 

 

途中ですが

 

今回はここまで。

 

 

 

 

 

 

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