カテゴリー

2024年1月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

« 茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子」/初期詩篇から「白昼幻想」 | トップページ | 折りにふれて読む名作・選/中原中也/「少女と雨」 »

2015年12月29日 (火)

茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子」/「生徒と鳥」の「公園で」

(前回からつづく)

(※茨木のり子の読みを離れています。編者。)

 

 

「白昼幻想」からそれほど遠くないであろう時に作られた

もう一つの「公園で」があります。

 

第3詩集「見えない地面の上で」中の詩と同題の

もう一つの「公園で」ですが

こちらは第1詩集「生徒と鳥」に収められてあり

1956年夏から翌57年2月のフランス旅行中に書かれたことを

詩人自ら記している詩です。

 

「抱かれている赤ん坊」

「風」

「パリ祭」

「昨日海から」

「冬」などと同じ時期に書かれたことを知っておくと

「生徒と鳥」を繙(ひもと)くときに役立つことでしょう。

 

同じ時期に

タイトル詩「生徒と鳥」などの一群の詩も書かれましたが

こちらが扱うのとはテーマが異なる系列の詩であることが述べられています。

 

(「三つの詩集のあとがき」)

 

もう一つの「公園で」を読みましょう。

 

 

公園で

 

 しのび足で、猫が人気ない公園の砂利の上を歩いている。かれは何かをねらっている。

しかしそこの地面には何もない。人の気配がする。猫は光る眼を上げる。鉄柵の向うから

見ていた男。四つの眼が合う。猫は出しかけた前肢をひっこめる。ちょっといらだった眼つ

きでねらっていたあたりの地面を眺めると、かれは向きをかえて走りだし、植込みのあいだ

を小走りにかけぬけて反対側の小道へ行く、また最初からはじめるために。

 

(思潮社「高良留美子詩集」所収「生徒と鳥」より。)

 

 

テーマとは何のことでしょうか。

 

ここには

公園で獲物を探している1匹の猫の

俊敏な動きがとらえられ

その様子をうかがっている男の眼が

猫の眼とかち合って猫は一目散に近くの植込みに逃げ込み

しばらくしてまた獲物を求めて公園を散策する

――という一連の経過が描かれます。

 

四つの眼ががっぷりよつになった瞬間の静かな緊張と

危険を感じた猫が踵(きびす)を返して逃げる様、

そして再び獲物のハンティングの姿勢をとる猫の

だるそうでありながら真剣な仕草が

詩人の眼によって

シンプルに過不足なくとらえられます。

 

都会のとある公園の昼下がりの一つの風景が

見事に鋭利な眼差しで切り取られたのですが

なぜこの詩がここにあるのでしょうか。

 

 

それがどうしたというのでしょうか。

 

都会の猫のきびしい生存の姿が描かれたのでしょうか。

 

メッセージ(意味)は

そのようなものではなさそうですが

邪魔が入って失敗したハンティングを

もう一度はじめる猫の

飢えた物腰に焦点が当てられているものではなさそうです。

 

焦点はそこにあるように見え

そこにメッセージが込められているとしても

そのようなメッセージを主張することに重心がある詩ではなさそうです。

 

 

やはり、ここでも

鉄柵の向うから見ていた男が気になります。

 

この男に重心があるものでもないのに

やはり、この男の登場が

この詩の肝(きも)のように作られていそうです。

 

男は鉄柵の向うから猫の動きをうかがっているだけで

意味を担(にな)って登場したとも言えないほどに

自然にそこに現われるのですが

ただの通行人にしては

ただならぬ存在感があるのはどこから生じるものでしょうか。

 

 

一服の清涼剤の詩のようでありながら

ここにも補助線のような

触媒のような

呼び水のような役割が負わされてはいないだろうか。

 

詩集を読むときに

類似(類型)を探し

相違を見い出すという作業を繰り返しているうちに

詩(集)と親しくなっているという経験を積んでいます。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

« 茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子」/初期詩篇から「白昼幻想」 | トップページ | 折りにふれて読む名作・選/中原中也/「少女と雨」 »

116戦後詩の海へ/茨木のり子の案内で/高良留美子」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子」/初期詩篇から「白昼幻想」 | トップページ | 折りにふれて読む名作・選/中原中也/「少女と雨」 »