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2015年12月30日 (水)

折りにふれて読む名作・選/中原中也/「少女と雨」

毎年毎年、年の瀬を迎え、新年を迎える時期になると

世間や周囲が俄然慌(あわ)ただしくなって

それでもぼくはぼくなりのペースを保とうとして

慌てず騒がず何食わぬ顔をしているうちに

いつしか近辺で、

はじめは職場で、やがては家族が

ごそごそがやがやいそいそとやりはじめるので

こちらもそうしなければならなくなって

大晦日と元日くらいはどうしても世間並みに

――ということになって、

めでたくもないのに

「あけおめ」「あけおめ」と繰り返す日々ですが。

 

世間がそうであるから却(かえ)って

静かに瞑目(めいもく)する時間が手に入るというものです。

 

 

年賀状を書いた余韻なのかもしれませんが

小学校や中学校や

時には幼稚園や

時には高校時代の……

 

それも「校舎」や「校庭」の景色が浮かんできて

しばらくは「学校の時間」にワープすることがあります、よね。

 

中也の詩が

そういう時に立ちのぼって来ます。

 

 

少女と雨

 

少女がいま校庭の隅に佇(たたず)んだのは

其処(そこ)は花畑があって菖蒲(しょうぶ)の花が咲いてるからです

 

菖蒲の花は雨に打たれて

音楽室から来るオルガンの 音を聞いてはいませんでした

 

しとしとと雨はあとからあとから降って

花も葉も畑の土ももう諦めきっています

 

その有様をジッと見てると

なんとも不思議な気がして来ます

 

山も校舎も空の下(もと)に

やがてしずかな回転をはじめ

 

花畑を除く一切のものは

みんなとっくに終ってしまった 夢のような気がしてきます

 

(「新編中原中也全集 第2巻・詩Ⅱ」より。現代表記に改めました。編者。)

 

 

年の瀬ですから

埋没しているわけにもいきませんが

ほんの数分間か

もっと短い、数秒のこともありますが

日常時間に戻ってガラス磨きなんかしていても

木造校舎のイメージや水道の蛇口やらが

頭のなかに現われては消え、消えては現われつづけることもあります。

 

少年時代や幼年期や青春の出来事が

年の瀬・新年になるとこうして                              

湧き上がるようにしてよみがえります。

 

 

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