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2015年12月18日 (金)

茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子/「見えない地面の上で」その2

(前回からつづく)

 

(※茨木のり子の読みを離れています。編者。)

 

むずかしい詩が続くなあ

 

何が歌われているのかさえわからない

 

でも……

 

 

なかば辟易(へきえき)し

なかば退屈しつつも

詩のタイトルの妙なアンバランスが気がかりで

詩集の終わりを見届ける気持ちになります。

 

 

「見えない地面の上で」があり「地球の夜」があり

「海鳴り」「木」が続くという配置に

「これは何だろう」と戸惑ったのがはじまりでした。

 

「ニュータウン」から「夏の地獄」へ

「夏の地獄」から「友だち」「幼年期」へという並びにも

「何だろう、この不連続感は」と不審を明かしたい姿勢は生まれ

詩集編集の裏側(意図)をうかがう姿勢は生まれ

「帰ってきた人」から散文詩「山鳩」への流れでは

見覚えのある現実――というべきか

(時の流れに省略がない)物語――というべきか

普通の(3次元の)自然が現われて

読み手の頭脳に血が流れ出す感じになります(ました)が……。

 

次の「通夜」でまた

「さっぱりわからなくなる」世界に戻されてしまいます(ました)。

 

 

詩集を読み続ける意志が消失しないのは

どういう理由からでしょうか?

 

退屈であると感じたその時に

そこから立ち去れば済むものを

そうはしないのは

そこに何かの理由があり

そこに引き留める存在(魅力)があるからです。

 

 

たとえば「山鳩」の末行に、

 

道は深く 産道のように崖を穿っていて 時がきたら わたしもあの道を通って広場へ行くのだ。

――とあり

つづく「通夜」のはじまりは、

 

 三角形の土地の上には菱形の台所があって 絶えずそこから多面体の料理が選び出される。

――とある時に、

二つの詩の異なり具合に驚かされて当たり前のことでしょう。

 

「何なのだ、これは?」と不思議に思った時に

詩世界へ入り込んでいるのは必然というものです。

 

奇跡のようなことが

ここにはじまっています。

 

 

「通夜」の独断的な言葉使いは

「雪」「地平」「淡雪」「挙式」……にも

果てしなく続くかのようです。

 

詩のはじまりだけを幾つか読んでみます。

 

 

 

 雪はそのしたの地面を一層黒くする。地面から滲み出してくる熱気もまた その上に住むひとの

ものだ。死を所有したものは いつかそのことによって復讐される。

 (雪)

 

石つぶての浮き出してくる道の果て 

(地平)

 

 走っていく男の形態は 時間の先端に似ている。

(挙式)

 

 

得体の知れない言葉の列――。

ひとりよがりのような。

 

どうもひっかかる――。

無意識に使われている言葉ではないのに。

何なのだろう――。

 

終わりまで読めば

何かがわかるかも知れない――。

 

このように思えるようになったとき

詩は、辟易させ退屈であるにもかかわらず

近づいています。

 

近づいた途端に

遠ざかりながら

また近づいてきます。

 

 

「居間」には「挙式」の不可解さは消え失せて

幾分か人間臭くなり

「焼跡」へ

「県立女学校」へ

「集団疎開」へ

「公園で」へ

「青物市場」へ

「遊園地へ行く道」へ

「投票所まで」へと

「生活」の匂いがにじみ出る詩が並びます。

 

この末尾の詩群を一つひとつ読んでいく中に

奇跡のような経験が待ち構えていて

そこにはこの詩集を編んだ詩人の大いなる企(たくら)みが存在するのを知ったとき

奇跡は感動に変わります。

 

ここでは

冒頭行だけを読んでおきましょう。
 

 

「公園で」と「青物市場」以外は散文詩の形をしていますから

第1行は1字下げではじまっています。

 

 

 月は血を滲ませた傷口のように 焼跡の空にかかっている。 (焼跡)

 

 授業が終ると教室の前の廊下は 色の褪せたセーラー服のまま床に坐りこんだ女学生で一杯になる。 (県立女学校)

 

 道は白く 北へ向かって延びている。 (集団疎開)

 

子供たちは一人 また一人と帰っていき

街角に群がっていた制服姿の女子中学生も

なにか相談事を済ませて分かれていった。 (公園で)

 

青物市場には四つの門がある。 (青物市場)

 

 遊園地へ行く道に 五軒の木筋アパートと一軒の会社の寮が並んでいるところがある。 (遊園地へ行く道)

 

 入場券をポケットにつっこんで わたしは出かける。 (投票所まで)

 

 

途中ですが

今回はここまで。

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