茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子/「木」と「水辺」
(前回からつづく)
見えない地面
――というイメージは
いったいどのようなイメージでしょうか。
そう発語した詩人はいま
どこにいるのでしょうか。
地下にあって
地上をのぞんでいるのでしょうか。
天にあって
地上を眺めているのでしょうか。
◇
詩(人)の眼差しは
どこかしら
「もの」の中にもぐり込んでいるように思えませんか?
◇
「海鳴り」をひととおり読んでみると
「見えない地面」というテーマと
クロス(接続)するのがうっすら感知できます。
見えないのは
見えなくなっている状態ですし
見えなくされているからですし
見たいのかもしれませんし
見なければならないのかもしれないですし
実は
見えているのかもしれません。
見えなかった地面が
見えたのを
見えないと歌ったのかもしれません。
「海鳴り」は
見えなかったものが見えたという
発見であるかもしれません。
◇
「木」という詩の構造が
「海鳴り」を読むヒントになることでしょう。
◇
木
一本の木のなかに
まだない一本の木があって
その梢(こずえ)がいま
風にふるえている。
一枚の青空のなかに
まだない一枚の青空があって
その地平をいま
一羽の鳥が突っ切っていく。
一つの肉体のなかに
まだない一つの肉体があって
その宮がいま
新しい血を溜めている。
一つの街のなかに
まだない一つの街があって
その広場がいま
わたしの行く手で揺(ゆ)れている。
――詩集「見えない地面の上で」
(「詩のこころを読む」より。)
◇
「木」は
詩集「見えない地面の上で」の中では
「海鳴り」の次に配置されています。
茨木のり子も
連続したこの二つの詩を取り上げました。
◇
木のなかの木
青空のなかの青空
肉体のなかの肉体
街のなかの街
……
「海鳴り」の乳房は
メタファーを通じて砂地(=子宮)を導いていますが
少し複雑なだけで
詩の構造は「木」と同じです。
からだのなかのからだ。
同じからだ。
どちらも一つのものです。
◇
ここで「木」と似たつくりの小品「水辺」に
目を通しておきましょう。
第2詩集「場所」以後に書かれ
第3詩集「見えない地面の上で」に配置しなかった詩が
「未刊詩篇」(3)として
「高良留美子詩集」(思潮社)に収められています。
その中の作品です。
◇
水辺
コスモスは
コスモスのなかで
ゆれている。
河は
河のなかを
流れている。
水辺に釣糸をたれるひとよ
あなたは
あなたのなかで
眠っているの?
(思潮社「高良留美子詩集」より。)
◇
コスモス
河
あなた
……。
これらの
「もの」を捉える詩(人)の眼差しは
同じ手法(感性)です。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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