茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子/「見えない地面の上で」その3「公園で」
(前回からつづく)
(※茨木のり子の読みを離れています。編者。)
読みはじめて1か月半。
はじめは歯が立たなかった詩も
馴染みあるものになって
歯が立たないものは今も幾つもありますが
詩の中に少しは入り込めるようになりました。
今では、
1時間で26篇の詩の半分ほどを読み通せますし
集中すれば2時間で詩集の全篇を一巡できる計算です。
◇
一つの詩集を初めて読むきっかけは
人さまざまでしょうが
何か一つでも馴染(なじ)みのある詩があれば
その詩を頼りにして
その詩の世界との類似を求めて(期待して)読み進めるというのが常道でしょう。
詩集「見えない地面の上で」を
「海鳴り」「木」を頼りに読みはじめたのは
茨木のり子の「詩のこころを読む」がきっかけでした。
◇
振り返れば――。
1、
「海鳴り」を読む課程で未刊詩篇「水辺」「女」に飛び
「木」を読み、
タイトル詩「見えない地面の上で」を読み
2、
詩集の冒頭に立ち返り
「白木蓮」
「彼女」
「見えない地面の上で」
「地球の夜」を通して読み、
ここでは不消化感を残して
3、
「海鳴り」「木」につづく
「この一匹の犬と人間たちの一かたまりは」と
「ニュータウン」へ向かい
ここに現われる人間や女に親近感を抱き
4、
「夏の地獄」へ進んでは
ここに登場する彼女がゴキブリの姿で目覚めるシーンには衝撃を受けつつも
詩全体には歯が立たない感じがあったので
詩集中の最大作とチェックしておいて
後半部に目を配ることにし
5、
「友だち」へ至れば
光が射しはじめたところに心は動くのを感じ
次の「幼年期」から次の「帰ってきた人」への流れの不思議さに少しひっかかるものを感じ
ここらに詩(人)の企みを感じ
6、
「山鳩」にはじまる散文詩の自然に
目が開かれる思いになり
一気に最後まで読み通す意欲が生まれます。
7、
「雪」「地平」「淡雪」の行分け詩に至っては
自然はいっそう深みを増しますが
末尾の散文詩群へと
大きなカーブを切っていく流れに任せて
「挙式」
「居間」
「焼跡」
「県立女学校」
「集団疎開」
「公園で」
「青物市場」
「遊園地へ行く道」
「投票所まで」と一挙に読み終えました。
◇
老人たちのたまり場になっている
昼下がりのドトールの喧騒の中で繙(ひもと)くには
妙にバランスのとれた詩集のようです。
◇
「夏の地獄」から「友だち」へ
「友だち」から「幼年期」へ、
そして「帰ってきた人」へという並びは
もう一つのカーブ。
というよりはヤマといったほうがよいでしょうか。
◇
行分け詩と散文詩が混在する――。
それらが、相互に補完し、重層する――。
第1詩集「生徒と鳥」も
第2詩集「場所」も
同じつくりのようです。
散文詩は行分け詩を補完し
その逆の場合もあり
詩集の全体化(総合)が企まれている。
◇
前半部から後半部への展開も
後半部から冒頭部への循環(への導き)も
おなじような全体化の運動を形づくっているようです。
個々の詩は
有機的な関係にあるため
遡行と前進と
どちらの読み(アプローチ)にも開かれてあります。
その中へ入っていきましょう。
◇
「公園で」という詩は
散文詩群のなかにある行分け詩です。
清涼剤のような小品ですが
その前の「集団疎開」と「対」関係にあるようにも読める
詩(人)の意図が潜んだ(ヒントになる)詩です。
◇
公園で
子供たちは一人 また一人と帰っていき
街角に群がっていた制服姿の女子中学生も
なにか相談事を済ませて分かれていった。
コンクリートの小山のまわりで
水飲み場の方から移ってきた中学生の一人が
通りかかる友達にひと声罵声を浴びせている。
さっき女の子たちの散っていった塀の前
灰色の空の下を
一人の老年の男が肩を少しまるめ
重そうな鞄をさげて住宅街の方へ通り過ぎる。
(思潮社「高良留美子詩集」所収「見えない地面の上で」より。)
◇
この10行詩を流れる時間は
詩人の過去の時間でしょうか
それとも現在でしょうか。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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