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2016年1月23日 (土)

茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子/「塔」へ4

(前回からつづく)



 

 

 

(茨木のり子の読みを離れています。編者。)

 

 

 

 

 

「塔」に

 

メッセージやイメージの伝達や、形式への意識などを読むことは

 

無駄ではありますまい。

 

 

 

作ったその時の方法が

 

ブルトン風の自動速記(automatism)であったとしても

 

作品として発表された時に

 

なんらかの成形(編集)が加えられたかもしれないからです。

 

 

 

そうでなくても

 

メッセージやイメージや形式のほうが

 

勝手に詩に着いてくるというようなことだってありえますし。

 

 

 

 

 

 

というものの、しかし

 

「生活」は銀杏並木に降る。

 

――という1行は

 

この詩に独自の存在感を響かせています。

 

 

 

「生活」が効いているのです。

 

 

 

 

 

 

舟のともづなを解こう。

 

 ふくろうは茂みの中で眼をむくだろう。人間共の、人間共の小心翼々がおまえにわかる

か。だがかれらと同じ赤い血が身内に流れている場合、それはまことにつらい拒否となる。

 

 

 

 忍耐がかんじんだ。リラの花が海辺をかざるのは夜だけではない。月は虹のあいだに逸

楽の砂地を見たのだ。葡萄の実はうれる。はなやかな仮装が地獄の道を通って行った。何

時かえってくるとも知れぬ、だが祭りはたしかに酔いしれた鉄骨に不思議な作用を及ぼし

たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

(思潮社「高良留美子詩集」所収「生徒と鳥」より。)

 

 

 

 

 

 

自動的に書かれた言葉が

 

書かれた後で

 

編集されたかどうか。

 

 

 

そのことを追究するのは

 

興味深いことですが

 

今それを問う必要はないでしょう。

 

 

 

「塔」は

 

その制作意識の有無や強弱とは無関係に

 

意味を放ち

 

イメージを散乱させています。

 

 

 

詩行の一部であろうが

 

全体であろうが

 

読みなさいと提示された詩は

 

厳密であろうとなかろうと

 

正確であろうとなかろうと

 

読むに値し

 

読む自由のなかにあります。

 

 

 

 

 

 

「塔」は

 

ほかの詩(自動速記で書かれなかった詩)に混ざって

 

やや異彩を放っているものの

 

自然な感性、通常の言語感覚でも読める詩です。

 

 

 

もちろん意味不明も

 

散らばっていますが。

 

 

 

 

 

 

第3連の、

 

舟のともづなを解こう。

 

――は、字義通りに読めばすむことでしょう。

 

 

 

出発だ。

 

今は漕ぎいでな!(万葉集)

 

 

 

第1連の、

 

塔が崩れてから二千年、不幸は何処にもなかった。

 

 

 

第2連の、

 

塔が崩れてから二千年、不幸はひとびとの頭上で怪物に化け、誰ももう幸福の幻影さえ描くことができない。

 

 

 

このどちらもからスムースに流れています。

 

――と、読むことは可能です。

 

 

 

あえて言えば

 

この流れは起承転結の起承です。

 

 

 

 

 

 

ふくろうが現われて

 

詩はさらに展開(前進)します。

 

 

 

人間どもの小心翼々をあざわらうもの。

 

 

 

だが……。

 

 

 

小心翼々を笑うふくろうには

 

人間どもと同じ血が流れているということだってあるのさ。

 

 

 

ふくろうを拒否するのも

 

覚悟がいるよ。

 

 

 

 

 

 

途中ですが

 

今回はここまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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