茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子/「塔」へ4
(前回からつづく)
(茨木のり子の読みを離れています。編者。)
「塔」に
メッセージやイメージの伝達や、形式への意識などを読むことは
無駄ではありますまい。
作ったその時の方法が
ブルトン風の自動速記(automatism)であったとしても
作品として発表された時に
なんらかの成形(編集)が加えられたかもしれないからです。
そうでなくても
メッセージやイメージや形式のほうが
勝手に詩に着いてくるというようなことだってありえますし。
◇
というものの、しかし
「生活」は銀杏並木に降る。
――という1行は
この詩に独自の存在感を響かせています。
「生活」が効いているのです。
◇
舟のともづなを解こう。
ふくろうは茂みの中で眼をむくだろう。人間共の、人間共の小心翼々がおまえにわかる
か。だがかれらと同じ赤い血が身内に流れている場合、それはまことにつらい拒否となる。
忍耐がかんじんだ。リラの花が海辺をかざるのは夜だけではない。月は虹のあいだに逸
楽の砂地を見たのだ。葡萄の実はうれる。はなやかな仮装が地獄の道を通って行った。何
時かえってくるとも知れぬ、だが祭りはたしかに酔いしれた鉄骨に不思議な作用を及ぼし
たのだ。
(思潮社「高良留美子詩集」所収「生徒と鳥」より。)
◇
自動的に書かれた言葉が
書かれた後で
編集されたかどうか。
そのことを追究するのは
興味深いことですが
今それを問う必要はないでしょう。
「塔」は
その制作意識の有無や強弱とは無関係に
意味を放ち
イメージを散乱させています。
詩行の一部であろうが
全体であろうが
読みなさいと提示された詩は
厳密であろうとなかろうと
正確であろうとなかろうと
読むに値し
読む自由のなかにあります。
◇
「塔」は
ほかの詩(自動速記で書かれなかった詩)に混ざって
やや異彩を放っているものの
自然な感性、通常の言語感覚でも読める詩です。
もちろん意味不明も
散らばっていますが。
◇
第3連の、
舟のともづなを解こう。
――は、字義通りに読めばすむことでしょう。
出発だ。
今は漕ぎいでな!(万葉集)
第1連の、
塔が崩れてから二千年、不幸は何処にもなかった。
第2連の、
塔が崩れてから二千年、不幸はひとびとの頭上で怪物に化け、誰ももう幸福の幻影さえ描くことができない。
このどちらもからスムースに流れています。
――と、読むことは可能です。
あえて言えば
この流れは起承転結の起承です。
◇
ふくろうが現われて
詩はさらに展開(前進)します。
人間どもの小心翼々をあざわらうもの。
だが……。
小心翼々を笑うふくろうには
人間どもと同じ血が流れているということだってあるのさ。
ふくろうを拒否するのも
覚悟がいるよ。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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