カテゴリー

2023年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ

« 2016年賀 | トップページ | 折りにふれて読む名作・選/中原中也/「早春散歩」 »

2016年1月 2日 (土)

折りにふれて読む名作・選/中原中也/「春」続

2016年元日は

中也の「春」を思わせる快晴の1日でした。

すくなくとも関東地方、すくなくとも相模地方は。

 

「いかめしいこあお=厳めしい紺青」の空が

大地を襲うような

一片の雲もない。

 

このような僥倖(ぎょうこう)を

このような恩寵(おんちょう)を

人は誰しも一生に何度かは味わうことがあるのでしょうか。

 

 

 

春は土と草とに新しい汗をかかせる。

その汗を乾かそうと、雲雀(ひばり)は空に隲(あが)る。

瓦屋根(かわらやね)今朝不平がない、

長い校舎から合唱(がっしょう)は空にあがる。

 

ああ、しずかだしずかだ。

めぐり来た、これが今年の私の春だ。

むかし私の胸摶(う)った希望は今日を、

厳(いか)めしい紺青(こあお)となって空から私に降りかかる。

 

そして私は呆気(ほうけ)てしまう、バカになってしまう

――薮かげの、小川か銀か小波(さざなみ)か?

薮(やぶ)かげの小川か銀か小波か?

 

大きい猫が頸ふりむけてぶきっちょに

一つの鈴をころばしている、

一つの鈴を、ころばして見ている。

 

(「新編中原中也全集 第1巻・詩Ⅰ」より。現代表記に改めました。編者。)

 

 

詩人はこの「春」に

きっと生地である山口県湯田でめぐりあったことでしょう。

 

土や草や

空や雲雀や

校舎やらが

どこかしら広々とした空間を感じさせますから。

 

 

「いかめしいこあお」の空を見た散策は

近くの戸外か

戸外でなくとも

実家の敷地内の庭先か――。

 

このように想像するのは無駄かも知れませんが

ふりむけば猫が鈴とじゃれている風景があったのなら

陽の当たる縁側で

至福の時間を迎えた、今年も。

 

めったに訪れることのない日のようですが

この地に生をうけて

幾度かこんな空にめぐりあったことだろう。
 

 

空は

底なしの青を湛(たた)えた空は

日常に埋没していて見えないだけで

時折は

詩人を襲ったように

ぼくたちの頭上にあるかもしれないのです。

 

 

そんな空が

シリアやイラクや

アフガンや……にも続いているとふと思えば

青は悲しみを帯び

ますます深くもなってきます。

 

 

« 2016年賀 | トップページ | 折りにふれて読む名作・選/中原中也/「早春散歩」 »

0169折りにふれて読む名作・選」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 2016年賀 | トップページ | 折りにふれて読む名作・選/中原中也/「早春散歩」 »