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2016年1月 7日 (木)

折りにふれて読む名作・選/中原中也/「早春の風」

 

やがて、空から深い青が失せる――。

 

陽気が増すにつれて

空は金の粉を浴びる。

 

金の粉を

風が吹き散らす。

 

 

早春の風

 

  きょう一日(ひとひ)また金の風

 大きい風には銀の鈴

きょう一日また金の風

 

  女王の冠さながらに

 卓(たく)の前には腰を掛け

かびろき窓にむかいます

 

  外(そと)吹く風は金の風

 大きい風には銀の鈴

きょう一日また金の風

 

  枯草(かれくさ)の音のかなしくて

 煙は空に身をすさび

日影たのしく身を嫋(なよ)ぶ

 

  鳶色(とびいろ)の土かおるれば

 物干竿(ものほしざお)は空に往(ゆ)き

登る坂道なごめども

 

  青き女(おみな)の顎(あぎと)かと

 岡に梢(こずえ)のとげとげし

今日一日また金の風……

 

(「新編中原中也全集 第1巻・詩Ⅰ」より。現代表記に改めました。編者。)

 

 

春は

ものみなが息を吹き返し

人の呼吸もまた生き返ります。

 

風は金(色)ですし

銀の鈴(の音)ですし

……

 

土は鳶色に香り

空には、物干しざおの洗濯物が舞います。

 

 

女王然として

テーブルの前に座り

大きな窓に向かう女性は

だれのことでしょう。

 

家のなかにいる女性ですから

想像できる範囲にありますが。

 

終連の「青き女」は

丘の樹木の

とげとげしい梢(こずえ)に見立てられた「顎(あご)」の女性です。

 

謎が残ります。

 

 

ドラマを想像させる

なんとも不思議な世界に

誘(いざな)われます。

 

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