折りにふれて読む名作・選/中原中也/「早春の風」
やがて、空から深い青が失せる――。
陽気が増すにつれて
空は金の粉を浴びる。
金の粉を
風が吹き散らす。
◇
早春の風
きょう一日(ひとひ)また金の風
大きい風には銀の鈴
きょう一日また金の風
女王の冠さながらに
卓(たく)の前には腰を掛け
かびろき窓にむかいます
外(そと)吹く風は金の風
大きい風には銀の鈴
きょう一日また金の風
枯草(かれくさ)の音のかなしくて
煙は空に身をすさび
日影たのしく身を嫋(なよ)ぶ
鳶色(とびいろ)の土かおるれば
物干竿(ものほしざお)は空に往(ゆ)き
登る坂道なごめども
青き女(おみな)の顎(あぎと)かと
岡に梢(こずえ)のとげとげし
今日一日また金の風……
(「新編中原中也全集 第1巻・詩Ⅰ」より。現代表記に改めました。編者。)
◇
春は
ものみなが息を吹き返し
人の呼吸もまた生き返ります。
風は金(色)ですし
銀の鈴(の音)ですし
……
土は鳶色に香り
空には、物干しざおの洗濯物が舞います。
◇
女王然として
テーブルの前に座り
大きな窓に向かう女性は
だれのことでしょう。
家のなかにいる女性ですから
想像できる範囲にありますが。
終連の「青き女」は
丘の樹木の
とげとげしい梢(こずえ)に見立てられた「顎(あご)」の女性です。
謎が残ります。
◇
ドラマを想像させる
なんとも不思議な世界に
誘(いざな)われます。
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