茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子」/「塔」へ
(前回からつづく)
(茨木のり子の読みを離れています。編者。)
高良留美子は
1932年(昭和7年)12月の生まれで
思潮社の「高良留美子詩集」は
1971年に発行されたのですから
40歳近くで現代詩文庫入りしたことになります。
この詩集中に
第1詩集「生徒と鳥」、
第2詩集「場所」
第3詩集「見えない地面の上で」の全篇のほか
未刊詩篇の幾つかも収録されています。
1971年以前の詩作品を概観できるのですが
仮に読んだとしても(読めたとしても)、
およそ50年の「近作」に触れることはできません。
◇
「公園で」のタイトルをもつ詩のうち
第1詩集「生徒と鳥」にあるものを読んでいるということが
高良留美子詩集の詩活動の全体から見て
ほんのわずかな位置をしか占めないことを理解しながら
もう少し第1詩集をひもといてみましょう。
というのも
第1詩集「生徒と鳥」に収められている「塔」を読まないでは
「海鳴り」「木」にはじまる
高良留美子の詩世界への糸口すらも見失ってしまい
それでは元の木阿弥になりますから。
◇
「塔」は
謎のような詩ですが
この詩人の生誕にからむ「芯」のようなものです。
そのようなものらしく思える作品です。
その一つです。
◇
塔
塔が崩れてから二千年、不幸は何処にもなかった。学校がえりの少女たちよ、この篠懸
通りの石段は君たちの脚幅には大きすぎる。赤い陽がまわり、君たちの頬は夕焼け色に
かがやく。わたしは君たちの悩みを追うまい、それはある月のある宵、家伝の金蒔絵の箱
に閉じこめられてしまったのだ。誰のとも知れぬ葬列は延々としてつづくではないか。
塔が崩れてから二千年、不幸はひとびとの頭上で怪物に化け、誰ももう幸福の幻影さえ
描くことができない。弾丸が満月をかすり、塔が昇天するのを見た。血が濁った水を押し流
す、問いがうずまく。塔が見つかるのは何処の夏だろう。街の片すみで君は臆病そうな、し
かし堅固そうな瞳を光らせていたっけ。商店街は扉を閉ざし、安時計が時を刻む。「生活」
は銀杏並木に降る。
舟のともづなを解こう。
ふくろうは茂みの中で眼をむくだろう。人間共の、人間共の小心翼々がおまえにわかる
か。だがかれらと同じ赤い血が身内に流れている場合、それはまことにつらい拒否となる。
忍耐がかんじんだ。リラの花が海辺をかざるのは夜だけではない。月は虹のあいだに逸
楽の砂地を見たのだ。葡萄の実はうれる。はなやかな仮装が地獄の道を通って行った。何
時かえってくるとも知れぬ、だが祭りはたしかに酔いしれた鉄骨に不思議な作用を及ぼし
たのだ。
(思潮社「高良留美子詩集」所収「生徒と鳥」より。)
◇
途中ですが
今回はここまで。
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