折りにふれて読む名作・選/中原中也/「早春散歩」
「厳(いか)めしい紺青(こあお)」の空が
年明けて4日連続して続きます。
もういいよという半端(はんぱ)な気持ちを戒(いまし)めるように
陽は惜しみなく降りそそぎます。
空の青は時間帯により濃度を変え
一定しているものでないことを知りますから
やがては風が吹き
雲が現われるのですが
こんなにも続く晴天は記憶をたどってもなかなか出てきません。
蝋梅(ろうばい)が開花し
白梅が早咲きするニュースは珍しいものではなく
ここ相模原地域でも見かけられます。
◇
春の姿態はさまざまですし
年によっても異なるのは当たり前ですね。
いかめしいこあおの空にも
やがて霞(かすみ)が立つ日が訪れ
風が吹く日がきます。
◇
早春散歩
空は晴れてても、建物には蔭(かげ)があるよ、
春、早春は心なびかせ、
それがまるで薄絹(うすぎぬ)ででもあるように
ハンケチででもあるように
我等の心を引千切(ひきちぎ)り
きれぎれにして風に散らせる
私はもう、まるで過去がなかったかのように
少なくとも通っている人達の手前そうであるかの如(ごと)くに感じ、
風の中を吹き過ぎる
異国人のような眼眸(まなざし)をして、
確固たるものの如く、
また隙間風(すきまかぜ)にも消え去るものの如く
そうしてこの淋しい心を抱いて、
今年もまた春を迎えるものであることを
ゆるやかにも、茲(ここ)に春は立返ったのであることを
土の上の日射しをみながらつめたい風に吹かれながら
土手の上を歩きながら、遠くの空を見やりながら
僕は思う、思うことにも慣れきって僕は思う……
(「新編中原中也全集 第2巻・詩Ⅱ」より。現代表記に改めました。編者。)
◇
春風は
詩人のこころを靡(なび)かせます。
薄衣であるかのように
ハンカチであるかのように
こころを千切って
きれぎれにしてしまいます。
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