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2016年1月22日 (金)

茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子/「塔」へ3

(前回からつづく)

(茨木のり子の読みを離れています。編者。)

「わが二十歳のエチュード」(学芸書林、2014年刊)は

高良留美子が19歳から22歳にかけての3年間に

スケッチ帳

ルーズリーフ

便箋

大学ノート

日記帳

原稿用紙などに書いた

文章と詩、メモ、引用などを収めたもので

1952年夏から55年夏の記録です。

 

(同書巻末「解題とあとがき」より。)

 

タイトルの「わが二十歳のエチュード」は

戦後すぐに自殺した一高生、原口統三が残した手記「二十歳のエチュード」を擬したもので

この「二十歳のエチュード」との間に「 」を置く距離はなく

高良留美子の「二十歳のエチュード」であることが際立っています。

 

 

原口統三は、熱心なランボー読みでした。

 

高良留美子は

原口の読みに欠けている角度に照明を与えるようにして

女の立場からランボーを読み

「二十歳のエチュード」に拮抗(きっこう)します。

 

それは

丁度、「塔」を書く頃のことでした。

 

 

そもそも高良留美子の「塔」の塔が

ランボーの「最も高い塔の歌」の塔と

遥かなところで響きあっていますから

ここでランボーの詩行を想起しておくのは無駄なことではないでしょう。

 

一部ですが

中原中也の訳――。

 

 

何事にも屈従した

無駄だった青春よ

繊細さのために

私は生涯をそこなったのだ、

 

ああ! 心という心の

陶酔する時の来(きた)らんことを!

 

(講談社文芸文庫「中原中也全訳詩集」より。現代表記に直しました。編者。)

 

 

高良留美子は

幼年期(少女時代)に戦争を経験しました。

 

屈従、無駄、そこなった――のは

青春ではなく幼年期でした。

 

 

「塔」が記述するのは

幼年期の少女の苦難であるとともに

青春のさなかの女性の困難でもあるらしい。

 

高校のクラスメートの打ち明け話を聞かされて

「塔」は

その夜のうちに書きあげられてしまったようですが

なぜプライベートなごたごたが

この詩を書くきっかけになったのでしょうか。

 

それをとやかく説明することを

詩人は控えているようです。

 

 

答え(ヒント)は

「わが二十歳のエチュード」に明かされており

詩「塔」を繰り返し読むことのなかでしか見つかるわけがないのです。

 

 

塔が崩れてから二千年、不幸は何処にもなかった。学校がえりの少女たちよ、この篠懸

通りの石段は君たちの脚幅には大きすぎる。赤い陽がまわり、君たちの頬は夕焼け色に

かがやく。わたしは君たちの悩みを追うまい、それはある月のある宵、家伝の金蒔絵の箱

に閉じこめられてしまったのだ。誰のとも知れぬ葬列は延々としてつづくではないか。

 

(思潮社「高良留美子詩集」より。)

 

 

自動速記で書かれた詩の意味をたどることは

きっと無駄なことではないでしょう。

 

 

第1連に出てくる「学校がえりの少女たち」とは、

集団疎開の少女たちであり

この詩を書くきっかけになった高校の級友であり

詩人自身でしょうか。

 

「わたし」は「君たち」とは異なり

悩みを追うことを封じられてしまったと記述されているからといって

君たちとわたしの距離はさほど大きくはない。

 

2000年のはるか昔に塔は崩れて

今や幸福とか不幸とか

そんなもの

幻想することもできないのは

わたしも君たちも同じはずです。

 

 

 塔が崩れてから二千年、不幸はひとびとの頭上で怪物に化け、誰ももう幸福の幻影さえ

描くことができない。弾丸が満月をかすり、塔が昇天するのを見た。血が濁った水を押し流

す、問いがうずまく。塔が見つかるのは何処の夏だろう。街の片すみで君は臆病そうな、し

かし堅固そうな瞳を光らせていたっけ。商店街は扉を閉ざし、安時計が時を刻む。「生活」

は銀杏並木に降る。

 

 

弾丸が満月をかする、

血が濁った水を押し流す、

問いがうずまく。

 

戦争のイメージでしょうか

少女たちの問いは胸を裂き

塔は渇望される。

 

それでも

「生活」は銀杏並木に降る――。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

 

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