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2016年1月 5日 (火)

折りにふれて読む名作・選/中原中也/「春の日の歌」

駅への道すがら

コスモスの咲く空き地があり

寒風のなかで今も濃いピンクの花を咲かせているのですが

気象変動のせいであるからとはいえ

夢のような景色です。

 

その中にじっとしていれば

花に

嬌羞(きょうしゅう=女性のなまめかしい恥じらい)がただようのも
不思議なことではありません。

 

 

春の日の歌

 

流(ながれ)よ、淡(あわ)き 嬌羞(きょうしゅう)よ、

ながれて ゆくか 空の国?

心も とおく 散らかりて、

エジプト煙草(たばこ) たちまよう。

 

流よ、冷たき 憂(うれ)い秘(ひ)め、

ながれて ゆくか 麓(ふもと)までも?

まだみぬ 顔の 不可思議(ふかしぎ)の

咽喉(のんど)の みえる あたりまで……

 

午睡(ごすい)の 夢の ふくよかに、

野原の 空の 空のうえ?

うわあ うわあと 涕(な)くなるか

 

黄色い 納屋(なや)や、白の倉、

水車の みえる 彼方(かなた)まで、

ながれ ながれて ゆくなるか?

 

(「新編中原中也全集 第1巻・詩Ⅰ」より。現代表記に改めました。編者。)

 

 

とろけるような時間はいつしか

夢のようなものになり

夢ではないのに夢のなかにいるような

夢現(ゆめうつつ)の状態になり、

次には夢現でありながら

リアルな激情を誘います。

 

詩人は

そのような時間のなかでこそ

意識、特に言語意識を明晰にし

詩をつかみ出します。

 

 

白日夢に現われる女性の

謎(なぞ)めいて

薄幸そうな

幻のような。

 

遠い存在であるかのような。

 

 

この女性が

長谷川泰子であるかどうか、

そのような想像は無用でしょう。

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