茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子/「生徒と鳥(2)」
(前回からつづく)
(茨木のり子の読みを離れています。編者。)
◇
「生徒と鳥(1)」は
詩集の配置では
「塔」
「風」
「生徒と鳥(2)」
――と続きますが
ここで「生徒と鳥(2)」を読みましょう。
同名の詩なので
お互いに連絡しているはずですから。
◇
生徒と鳥(2)
土ぼこりをたてて生徒の列が行く
(空にはつめたい光があった)
列のうしろにいた少年は
行手の石段にむかってかけよった
拳銃にうたれた一羽の鳥が
石段の途中に死んでいた。
教師の視線を感じながら
少年は鳥を手にとった
そのやわらかな胸毛をとおして
ひえていく鳥のからだにかれは触れた。
土ぼこりをたてて生徒の列が行く
(空にはつめたい光があった)
生徒の制服の胸のおくにも
ひえきった小鳥の死があった
熱風にまかれて夜明けの空を
もえる街に落ちた鳥の死が。
そのからだをかれは幼い日
やけ落ちたお宮の石段の上で見た
くろこげの木がかれの町の空をつきさし
かれの心をつきさしていた
土ぼこりをたてて生徒の列が行く
(空にはつめたい光があった)
(思潮社「高良留美子詩集」所収「生徒と鳥」より)
◇
行分けが小刻(こきざ)みになり
ルフラン(繰り返し)もあり
いっそう形への意図が明確になりました。
全部で7連の詩ということになりますが
うち3連が2行のルフラン
ほかの4連は4行でできています。
ルフランは
それだけでリズムを生み
ほかの連の行数(4行)を規制し
音数律までをも誘発して
朗読の道を開くかのようです。
少なくとも
物語の枠組みを告げる語りの役を果たしています。
◇
形(定型)への志向が明らかになった一方
意味内容もくっきりし
漢字熟語を制限する表記が意識され(ひらがなの使用)
難解なメタファーも消えました。
このようにして詩が分かりやすくなり
伝達に重心が移ったように感じるのも道理といえましょう。
◇
いま、生徒の行列は
砂ぼこりをあげて行進しています。
「生徒と鳥(1)」の砂漠に
接続する時間と空間が示されているのでしょう。
こちらは夢の中のようではなく
リアルな時間が流れている様子です。
主格は
行列の中から飛び出した少年です。
少年は
石段に死んでいる鳥に駆け寄り
今まさに死んでゆく鳥を手に取ります。
ここまでで
詩の半分です。
◇
少年の胸には
今手にしている鳥の死ではない
もう一つの小鳥の死が存在しています。
熱風に巻かれて
夜明けの空に焼け落ちた鳥――。
戦争の焼け跡で見た
小鳥の死が突如、よみがえるのです。
少年は幼い日に
焼け落ちた石段の上に死んでいる鳥を見ました。
◇
さて……。
詩に現れる少年が
詩人である必要はありませんが
詩人でない必要はいっそうありません。
少年は少女であっても
いいでしょう。
◇
「公園で」
「生徒と鳥(1)」
「塔」
「風」
「生徒と鳥(2)」
――という配列は
詩集「生徒と鳥」のほぼ中心部にあります。
中心部の中心には
「塔」があります。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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