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2016年2月26日 (金)

折に触れて読む名作・選/茨木のり子「鯛」

 
 
茨木のり子に動物をタイトルにした詩は

多くはありません。

 

そのことに意味があるのか

わかりませんが

「鯛」は

「鶴」の対極にあるような詩です。

 

というと誤解を招きます、か。

 

 

読んでみるのが

先決です。

 

 

 

早春の海に

船を出して

鯛をみた

 

いくばくかの銀貨をはたき

房州のちいさな入江を漕ぎ出して

蜜柑畠も霞む頃

波に餌をばらまくと

青い海底から ひらひらと色をみせて

飛びあがる鯛

珊瑚いろの閃き 波を蹴り

幾匹も 幾匹も 波を打ち

突然の花火のように燦きはなつ

魚族の群れ

 

老いたトラホームの漁師が

船ばた叩いて鯛を呼ぶ

そのなりわいもかなしいが

黒潮を思うぞんぶん泳ぎまわり

鍛えられた美しさを見せぬ

怠惰な鯛の ぶざまなまでの大きさも

なぜか私をぎょっとさせる

どうして泳ぎ出して行かないのだろう 遠くへ

どうして進路を取らないのだろう 未知の方角へ

 

偉い僧の生誕の地ゆえ

魚も取って喰われることのない禁漁区

法悦の入江

愛もまた奴隷への罠たりうるか

海のひろさ

水平線のはるかさ

日頃の思いがこの日も鳴る

愛もまたゆうに奴隷への罠たりうる

 

(ちくま文庫「茨木のり子集 言の葉1」所収 詩集「鎮魂歌」より。)

 

 

もしも、

「自由」を補助線に引いたらば

二つの詩は近づくのかもしれません。

 

 

末尾の、「日頃の思い」に

詩人の思念が偲(しの)ばれます。

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