茨木のり子厳選の恋愛詩・初めての高良留美子/詩集「生徒と鳥」の「風」その3
(前回からつづく)
(茨木のり子の読みを離れています。編者。)
◇
少女が「風」のなかで
石壁のなかに消えたのはなぜなのか。
――と問うと
答えは見つからないかもしれません。
その問いは
自然ですが
「風」は自然を描写しているものではありませんから。
そのように問うのは勝手ですが
そう問うと詩のなかに入っていけません。
◇
「風」は
第1連、第2連、第4連(終連)を
自然に読むことはできても
第3連を読むには努力が要ります。
どのように書かれているか
もう一度読んでみると――
石壁のなかに消えた少女、
その油気のない髪の毛のなかを吹きぬけながら
その背の高さで、風もまた少しずつ死んでいく。
――となっています。
この連の主格もまた風です。
少女は
風が死んでいくという主述関係の副詞句に過ぎません。
◇
だから、という強い理由があるわけではないのですが
少女はここで死んでいません。
少女(詩人)は
第4連で「ものがたり」の発端にいるのです。
◇
ここに来て
いったい「風」という詩は
何を歌っているのでしょうか
――という問いが有効です。
この問いは
いったい風という自然現象は
なんなのでしょう。
――という問いを問うのと似ています。
風は、
自然の風は、
ようやく意味を持ちはじめたようです。
◇
ここで単なる自然の風は
象徴の風に変成しています。
そのことを
ふたたび「作品」を構成していた詩を読んで
確認することができるでしょう。
◇
雲と銀杏(いちょう)
ぐんぐん体を伸ばした白雲は
ついに太陽に足をかけた
銀杏の樹は真っ裸で
髪を逆立てて立ちはだかった
天に突き出したその幾百の腕は
荒れ狂う風に
雲をむち打ってばりばり鳴った
(学芸書林「わが二十歳のエチュード」より。)
◇
この詩の「荒れ狂う風」は
いまだ自然の風でした。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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