茨木のり子厳選の恋愛詩/滝口雅子を知っていますか? 「男について」
(前回からつづく)
詩人、滝口雅子のアウトラインを見る途中ですが
やはり詩を読みましょう。
「男について」は
第2詩集「鋼鉄の足」に収められています。
茨木のり子は「詩のこころを読む」で
「男について」と「秋の接吻」の2作を
「恋唄」の章で取りあげたのでした。
◇
男について
男は知っている
しゃっきりのびた女の
二本の脚の間で
一つの花が
はる
なつ
あき
ふゆ
それぞれの咲きようをするのを
男は透視者のように
それをズバリと云う
女の脳天まで赤らむような
つよい声で
男はねがっている
好きな女が早く死んでくれろ と
女が自分のものだと
なっとくしたいために
空の美しい冬の日に
うしろからやってきて
こう云う
早く死ねよ
棺(かん)をかついでやるからな
男は急いでいる
青い“あんず”は赤くしよう
バラの蕾(つぼみ)はおしひらこう
自分の掌がふれると
女が熟しておちてくる と
神エホバのように信じて
男の掌は
いつも脂でしめっている
――詩集「鋼鉄の足」
(「詩のこころを読む」より。傍点は“ ”で示し、促音「つ」は現代表記「っ」に直しました。編者。)
◇
思わず釘づけになります。
しゃっきりのびた女の2本の脚、
その間で春夏秋冬咲く一つの花。
男はそれを知っているつもりなのを
女がそれを実は見ている、ということらしい。
どうしようもなく男と女はからまりあったようで
実は女の冷めた目は
神エホバをも単なる男として眺めやっています。
◇
茨木のり子は、
「最初よんだとき、外国のいい詩を、名訳で読んだような感銘」とコメントし
そう読んだ理由について
次のように記しました。
◇
ここに描かれた男たちの特徴が、
世界に共通の雄(おす)の性(さが)であるためでしょう。
うぬぼれ心、横溢(おういつ)で、手が神エホバのようにしめっているせいで、
人類はここまで存続してきたわけなのですが、
それにしても、あまりにも、はびこりすぎたのでは……。
(「詩のこころを読む」より。改行を加えました。編者。)
◇
滝口雅子の第2詩集「鋼鉄の足」は
Ⅰが14篇、Ⅱが15篇、合計29篇で構成されていて
「男について」はⅡの第3番に置かれています。
Ⅱを通して読むと、
1番詩「少女の死」にも
2番詩「かなしみよ こんにちわ」にも
4番詩「男S」にも
5番詩「革命とは」にも
6番詩「すこやかな現実」にも
7番詩「水平線」にも
8番詩「若もの」にも
9番詩「港の対話――逃亡者」にも
……
男(の影)が現れるのに気づきます。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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