茨木のり子厳選の恋愛詩/滝口雅子を知っていますか? アウトライン「青春の詩集」
(前回からつづく)
(茨木のり子の読みを離れています。編者。)
滝口雅子が男についての考えを明らかにするのは
「男について」などの自作詩を通じてばかりではありません。
◇
滝口雅子の編著「青春の詩集」(1967年、二見書房)は
滝口雅子がまもなく50歳を迎えるころのエッセイ集ですが
内外の名作詩を次々に読み解いていく手さばきは
息苦しくなるほど濃密な時間が継続します。
たとえばゲーテは
「野薔薇」とともに現れます。
◇
野薔薇
(手塚富雄訳)
野にひともと薔薇が咲いていました
そのみずみずしさ 美しさ
少年はそれを見るより走りより
心はずませ眺めました
あかい薔薇 野薔薇よ
「おまえを折るよ、あかい野薔薇」
「折るなら刺します
いついつまでもお忘れにないように
けれどわたし折られたりするものですか」
あかい薔薇 野薔薇よ
少年はかまわず花に手をかけました
野薔薇はふせいで刺しました
けれど歎きやためいきもむだでした
薔薇は折られてしまったのです
あかい薔薇 野薔薇よ
◇
折られたバラは不幸だろうか。
バラを折った少年は、残酷な少年だろうか。
あなたは少年を憎く思うだろうか。
あなたは、バラがいつまでも折られなければいいと思うだろうか。
――と滝口雅子はこの詩を読みはじめます。
◇
「青春の詩集」を
少しひもといてみましょう。
まず目次を見ますと
1 青春をさすらうあなたに
2 恋にめざめるあなたに
3 恋のよろこび
4 恋のかなしみ
5 恋のおわり
6 孤独なあなたに
――という6章で構成されています。
◇
ああ、そうだったか!
青春はさすらいであり
そのうち自然に恋にめざめ
時には喜びにあふれた恋の時間にひたり
時にはそれが悲しみに変わり
終わりを告げる
ふたたび孤独の境涯をかみしめる……。
この構成!
この内容!
絵に描いたような
まだ読んでいないうちから
人生の道のりを振り返らせられて
ハッとさせられるような。
青春を人生の花だとは決して言わせまい(ポール・ニザン)
――という激しい生(ロマン)に共鳴して生きてきた世代にも
このような青春が隣り合わせていたことを
ためいきとともに思い出す人があるに違いありません。
◇
ようやく今、心の異変に気づきはじめた
すっぱい林檎の恋人たちも
自分の心のなかに目を向け
その原因がどうやらあの人にあることを知ったばかりです。
世界がようやく目の前に現われ
恋人たちは
恋のはじまりを知らず
恋に果てのあることを知りません。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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