滝口雅子アウトライン特別編/茨木のり子の恋愛詩「私のカメラ」
(前回からつづく)
滝口雅子編著の「青春の詩集」のなかに
茨木のり子の「私のカメラ」があるのも
偶然のことではないでしょう。
ややこしくなってきましたが
茨木のり子の「詩のこころを読む」に導かれて
滝口雅子の恋愛詩を読んでいるうちに
散文に目をやっていて「青春の詩集」を読んでいると
中に茨木のり子の恋愛詩「私のカメラ」が鑑賞されてあるのにぶつかりました。
◇
私のカメラ
眼
それは レンズ
まばたき
それは わたしの シャッター
髪でかこまれた
小さな 小さな 暗室もあって
だから わたし
カメラなんてぶらさげない
ごぞんじ? わたしのなかに
あなたのフィルムが沢山しまってあるのを
木洩れ陽のしたで笑うあなた
波を切る栗色の眩しいからだ
煙草に火をつける 子供のように眠る
蘭の花のように匂う 森ではライオンになったっけ
世界にたったひとつ だあれも知らない
わたしのフィルム・ライブラリイ
(二見書房「青春の詩集」より。)
◇
この詩の中の、
木洩れ陽のしたで笑う
波を切る栗色の眩しいからだ
煙草に火をつける
子供のように眠る
蘭の花のように匂う
森ではライオンになったっけ
――のような男へのまなざし。
◇
滝口雅子に限らず
多くの詩人が
目、眼、瞳……見ることへの関心から無縁でいるはずもありませんが
第4詩集「見る」をもつほど
滝口は視覚へのこだわりの強い詩を残しました。
男もしばしば
その「見る」対象になりました。
◇
たとえば、「若もの」は
全行が若者の像の描写にちかいものです。
先に読んだばかりの「男S」には
腰はドラム罐
肩に這い上る肉の“こぶ”
とか
横顔の深い“しわ“
木綿生地の厚い“しわ”
などとあるのは記憶に新しいことです。
◇
「私のカメラ」の茨木のり子と
滝口雅子の幾つかの詩は
相互に響き合いますが
それが実作の場面で意識されていたかはわかりません。
互いにライバル意識みたいなものが
あったかもしれませんし
偶然であったかもしれません。
◇
滝口雅子が「青春の詩集」に
茨木のり子の「私のカメラ」を選んだのは
なんといっても
それが恋愛詩の名作であるからです。
詩集「鎮魂歌」(1965年)に収められています。
この恋唄に歌われている男(=あなた)が
夫君・三浦安信であることは
もはや知る必要もないことでしょう。
◇
途中ですが
今回はここまで。
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