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2016年4月22日 (金)

滝口雅子アウトライン特別編/茨木のり子の恋愛詩集「歳月」/「行方不明の時間」から「五月」へ

(前回からつづく)

 

(滝口雅子アウトラインを離れています。)

 

 

「夢に遊ぶ病」には

タイトルにちなんだ夢遊病が現れながら

それを補強するように「幽冥境」が歌われます。

 

あの世とこの世の間の領域を表わす、

この幽冥境に似た世界(状態)について

茨木のり子はしばしば詩(行)にしていて

「歳月」中にもさまざまな形で現れます。

 

 

たとえば「五月」の次の次にある「夢」。

 

隣のベッドはからっぽなのに

あなたの気配はあまねく満ちて

音楽のようなものさえ鳴りいだす

余韻

夢ともうつつともしれず

からだに残ったものは

哀しいまでの清らかさ

 

詩集後半の「Ⅱ」のはじめの方にある「夜の庭」。

 

夜気に漂よう馥郁の花に誘われて

あの世とこの世の境の

透明な秋の回転扉を押して

ふらり こちら側にあらわれないでもない

 

セルの着物を着て

あれ? 

というように

髪をかきあげながら

 

「Ⅱ」の終わりにある「橇(そり)」。

 

この世から あの世へ

越境の意識もなしに

白皚皚の世界を

蒼い月明のなかを

 

――などとあるのにぶつかります。

 

 

「歳月」以外の詩集にも

見つかります。 

 

その一つ、「行方不明の時間」は

「茨木のり子集 言の葉」のために

2002年に書き下ろされた詩ですから

晩年の作品と言えるものです。

 

 

行方不明の時間

 

人間には

行方不明の時間が必要です

なぜかはわからないけれど

そんなふうに囁(ささや)くものがあるのです

 

三十分であれ 一時間であれ

ポワンと一人

なにものからも離れて

うたたねにしろ

瞑想にしろ

不埒(ふらち)なことをいたすにしろ

 

遠野物語の寒戸(さむと)の婆のような

ながい不明は困るけれど

ふっと自分の存在を掻き消す時間は必要です

 

所在 所業 時間帯

日々アリバイを作るいわれもないのに

着信音が鳴れば

ただちに携帯を取る

道を歩いているときも

バスや電車の中でさえ

<すぐに戻れ>や<今、どこ?>に

答えるために

 

遭難のとき助かる率は高いだろうが

電池が切れていたり圏外であったりすれば

絶望は更に深まるだろう

シャツ一枚 打ち振るよりも

 

私は家に居てさえ

ときどき行方不明になる

ベルが鳴っても出ない

電話がなっても出ない

今は居ないのです

 

目には見えないけれど

この世のいたる所に

透明な回転ドアが設置されている

無気味でもあり 素敵でもある 回転ドア

うっかり押したり

あるいは

不意に吸いこまれたり

一回転すれば あっという間に

あの世へとさまよい出る仕掛け

さすれば

もはや完全なる行方不明

残された一つの愉しみでもあって

その折は

あらゆる約束ごとも

すべては

チャラよ

 

(ちくま文庫「茨木のり子集 言の葉3」より。)

 

 

これらに共通しているのは

「その状態」を捉える明晰で明確な意識です。

 

幽明境(ゆうめいきょう)であるからといって

意識朦朧の状態を歌っているものではありません。

 

 

「夢」は

今しがた見たばかりのような

現在に限りなく近い過去。

 

「夜の庭」も「橇」も

遠い過去の思い出でありながら

昨日のように鮮烈であるというように。

 

 

途中ですが

今回はここまで。 

 

 

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