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2016年4月30日 (土)

滝口雅子アウトライン特別編/茨木のり子の恋愛詩集「歳月」/「部分」

 

(前回からつづく)

 

(滝口雅子アウトラインを離れています。)

 

 

 

 

Yの思い出は

像(イメージ)として

どのように描かれているでしょうか。

 

 

たとえば「四面楚歌」に、

 

四面楚歌 項羽ほろぶるのとき

窈窕(ようちょう)たる虞美人を

どうしたものかと千々にこころ乱るるのうた

 

お酒に酔っていい御機嫌

先生の声色よろしく二度ばかり

くちずさんだのを聞いている

 

たとえば「最後の晩餐」に、

 

箸をとりながら

「退院してこうしてまた

 いっしょにごはんを食べたいな」

子供のような台詞にぐっときて

泣き伏したいのをこらえ

 

たとえば「月の光」に、

 

ある夏の

ひなびた温泉で

湯あがりのあなたに

皓々の満月 冴えわたり

 

(略)

 

いまも

目に浮ぶ

蒼白の光浴びて

眠っていた

あなたの鼻梁

浴衣

素足

 

……などとあるのを読んできて

次の詩にぶつかります。

 

 

部分

 

日に日を重ねてゆけば

薄れてゆくのではないかしら

それを恐れた

あなたのからだの記憶

好きだった頸すじの匂い

やわらかだった髪の毛

皮脂滑らかな頬

水泳で鍛えた厚い胸郭

π字型のおへそ

ひんぴんとこぶらがえりを起したふくらはぎ

爪のびれば肉に喰いこむ癖あった足の親指

ああ それから

もっともっとひそやかな細部

どうしたことでしょう

それら日に夜に新たに

いつでも取りだせるほど鮮やかに

形を成してくる

あなたの部分

 

(花神社「歳月」より。)

 

 

一つ屋根の下で暮らした相手の

肉体の細部の記憶の

その一つ一つが

目の前に飛び込んでくるように

宝物のように描かれます。

 

 

このようにブローアップされた像は

「町角」では、

 

日ごと夜ごと

顔見合わせている

古女房なのに

なぜあんなにもいそいそと

うれしそうに歩いてきたのか

 

姿をみつけると

こちらが照れるほどに

笑いながら

あちらこちらの町角に

ちらばって

まだ咲いている

あなたの笑顔

(以下略)

 

――と一歩を引いた地点から描写されます。

 

待ち合わせの場面です。

 

 

時に接写し

時に近距離で

時に遠くの方にYはいますが

これらの像(肉体)は今、

すべてが幻(まぼろし)であることを

この詩を書いているそばから

詩人は思い知るしかありません。

 

 

「恋唄」が

こうして歌われます。

 

 

途中ですが 

今回はここまで。 

 

 

 

 

 

 

 

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