カテゴリー

2024年1月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

« 滝口雅子アウトライン特別編/茨木のり子の恋愛詩集「歳月」/「部分」 | トップページ | 滝口雅子アウトライン特別編/茨木のり子の恋愛詩集「歳月」/「(存在)」 »

2016年5月 3日 (火)

滝口雅子アウトライン特別編/茨木のり子の恋愛詩集「歳月」/「恋唄」

 

(前回からつづく)

 

(滝口雅子アウトラインを離れています。)

 

 

 

 

 

恋唄

 

肉体をうしなって

あなたは一層 あなたになった

純粋の原酒(モルト)になって

一層わたしを酔わしめる

 

恋に肉体は不要なのかもしれない

けれど今 恋わたるこのなつかしさは

肉体を通してしか

ついに得られなかったもの

 

どれほど多くのひとびとが

潜って行ったことでしょう

かかる矛盾の門を

惑乱し 涙し

 

(花神社「歳月」より。)

 

 

あなたの肉体が消えてしまっても

(イメージの)エキスと化したようだわ。

原酒(モルト)になって

わたしをこうして酔わせてくれる――。

 

これなら肉体は不要なのかもしれない

――と思うそばから

いや、そう思えるのは

肉体の記憶があるからだと考え直す。

 

やっぱり

恋しさの出所(でどころ)は

肉体。

 

あれがあったからこそ

いま、こんなに恋しいのだ。

 

この矛盾の門を

多くの人がくぐり抜けてきたのでしょうね。



混乱したり、悲しみに暮れたりしたりして。

 

――と、このように読みをほどこすと

まったく抜け落ちてしまうものがあり

それが詩(の実体)ですから

詩を見失わないでください。

 

詩から離れないでください。

 

 

純粋の原酒(モルト)のように酔わせるものという

この純粋のモルトとは

不在の像(イメージ)であり

思い出の形であり

形に漂う面影(おもかげ)であり

……

素手でつかもうとすれば消えてしまう

気体(エキス)のようなもの

幽霊のようなものなのでしょう。

 

詩人は純粋のモルトのようなその香気につつまれ

心地よい酔いにひたりますが

ひたればひたるほど

肉体の不在を思い知ることになります。

 

アガペーのようなものであっても

それ自体の実在を知覚できるものではない。

 

それを手に入れることができたのは

肉体の経験を記憶しているからでしょ。

 

エロス(肉体)の経験が

モルトに醸造されているからこそ

この恋しさ、なつかしさがわたしを酔わせている。

 

 

矛があり盾がある――。

 

この裏腹の関係の

一方(肉体)は

もはや手に取ることはできないのですから

はじめから無いものねだりをしているような

切ない憧憬です。

 

それを詩は歌います。

 

それを歌うのが詩です。

 

その詩のタイトルが

恋唄とされました。

 

 

途中ですが 

今回はここまで。 

 

 

 

 

« 滝口雅子アウトライン特別編/茨木のり子の恋愛詩集「歳月」/「部分」 | トップページ | 滝口雅子アウトライン特別編/茨木のり子の恋愛詩集「歳月」/「(存在)」 »

113戦後詩の海へ/茨木のり子の案内で/滝口雅子」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 滝口雅子アウトライン特別編/茨木のり子の恋愛詩集「歳月」/「部分」 | トップページ | 滝口雅子アウトライン特別編/茨木のり子の恋愛詩集「歳月」/「(存在)」 »