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2016年5月 7日 (土)

滝口雅子アウトライン特別編/茨木のり子の恋愛詩集「歳月」/「(存在)」

(前回からつづく)

 

(滝口雅子アウトラインを離れています。)

 

 

 

 

矛盾の門の一方を歌った

「その時」や「獣めく」のような

肉体(生)の記憶をあつかった詩の一群があり

一方に、

エロス(肉体)が限りなく希薄になり

ついには肉体のない世界(死)が歌われる一群もあります。

 

 

(存在)

 

あなたはもしかしたら

存在しなかったのかもしれない

あなたという形をとって 何か

素敵な気(き)がすうっと流れただけで

 

わたしも ほんとうは

存在していないのかもしれない

何か在りげに

息などしてはいるけど

 

ただ透明な気(き)と気(き)が

触れあっただけのような

それはそれでよかったような

いきものはすべてそうして消えて失せてゆくような

 

(花神社「歳月」より。)

 

 

愛するもの同士が

気(もの)と化してしまう状態――。

 

恋する相手を失って

あたかも初恋のような

肉体のない世界が取り戻されたのでしょうか。

 

そうであるならば

初々しく瑞々(みずみず)しくピュアであった

青春の輝きに満ちた世界であるところなのに

ここにあるのは

行く先の死を遠くから見ているような

宇宙から地球の摂理をながめているような

深い諦めのようなものが底にあります。

 

 

この詩は

タイトルがつけられていなかった作品であるため

( )で仮題が示されました。

 

「ひとり暮らし」に、

 

今はじめて 生まれてはじめて一人になって

ひとり暮らし十年ともなれば

宇宙船のなか

あられもなく遊泳の感覚

さかさまになって

宇宙食噛るような索漠の日々

 

手鏡をひょいと取れば

そこには

はぐれ猿の顔

 

――とあり、

 

「梅酒」に、

 

後に残るあなたのことばかり案じてきた私が 

先に行くとばかり思ってきた私が

ぽつんと一人残されてしまい

 

――などとある寂寥とは

異なる領域に踏み込んでいる詩であり

タイトルをつけかねていたのかもしれません。

 

 

「急がなくては」は、

 

あなたのもとへ

急がなくてはなりません

あなたのかたわらで眠ること

ふたたび目覚めない眠りを眠ること

それがわたくしたちの成就です

 

――と「成就」を歌い

この成就に近い世界なのかもしれません。

 

「急がなくては」では

恋する心はもはや

死者と同一化の願いを歌っています。

 

不在の相手との同一化の願いが

死でも生でもない

気体と気体との交流として歌われる「(存在)」が

ここ「急がなくては」では、

死者への同化によって完成(成就)します。

 

 

ここまでくると

矛盾の門は

どこか遠いところの世界へ退いたのでしょうか。

 

矛盾に満ちた生存は

存在するのかしないのか

はっきりしない「在り気」な存在になります。

 

 

愛の歌は

死を思い

死を思索する詩になります。

 

詩集「歳月」は

こうして愛の詩の深みを切り開いていきます。

 

 

途中ですが 

今回はここまで。 

 

 

 

 

 

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