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2016年6月20日 (月)

折にふれて読む中原中也の名作/もう一つの「いちじくの葉」

いちじくの葉

電線

……と僕の「こころ」が

繋(つな)がっているようです。

 

電線から蝉の声が聞こえてくるところで

すべてが繋がってしまうのですね。

 

繋がって

すべてが揺れています。

 

そのうえ、いちじくは

葉が葉として揺れ

枝としても揺れています。

 

 

ではなぜ

僕は眠ろうか……とするのでしょうか?

 

眠りを誘うような風景では

微塵(みじん)もないのに。

 

 

この疑問こそ

この詩を味わうきっかけです。

 

夏の午前の、いちじくの葉の

乾いた、眠そうな色の

弱い枝が揺れている――。

 

それを見ている詩人の眼差しは

空に向かい

電線をとらえ

蝉声を聞き……

 

陽は雲に隠れて

静かに「昏い」世界を

一瞬にして呼び起こすのです。

 

 

「音く」とある誤記(誤植)を

「昏(くら)く」と読んで

「いちじくの葉」の詩世界の

不気味な(?)生命力みたいなものへ

立ち入っていくことが可能でしょう。

 

 

「いちじくの葉」は

夏の午前を歌ったこの詩のほかに

夕方の「いちじくの葉」を歌った詩があり

両作品は対照的なようで似ています。

 

 

いちじくの葉

 

いちじくの、葉が夕空にくろぐろと、

風に吹かれて

隙間(すきま)より、空あらわれる

美しい、前歯一本欠け落ちた

おみなのように、姿勢よく

ゆうべの空に、立ちつくす

――わたくしは、がっかりとして

わたしの過去の ごちゃごちゃと

積みかさなった思い出の

ほごすすべなく、いらだって、

やがては、頭の重みの現在感に

身を托(たく)し、心も托し、
 

なにもかも、いわぬこととし、

このゆうべ、ふきすぐる風に頸(くび)さらし、

夕空に、くろぐろはためく

いちじくの、木末(こずえ) みあげて、

なにものか、知らぬものへの

愛情のかぎりをつくす。

 

(「新編中原中也全集 第2巻・詩Ⅱ」より。新かなに変えました。編者。)

 

 

こちらは

1930年(昭和5年)秋の制作と考えられています。

中也は23歳です。

 

 

 

 

 

 

 

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