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2016年6月27日 (月)

折にふれて読む中原中也の名作/「夜明け」

戦後すぐの1946年12月に 


小林秀雄は自ら編集責任のポストにあった季刊誌「創元」に


「モオツアルト」を発表しました。


 

この「創元」に


中原中也の詩4作が載りました。

 


その4作が


「いちじくの葉(夏の午前よ、いちじくの葉よ)」


「朝(雀の声が鳴きました)」 


「昏睡」


「夜明け」


――です。 


 

選んだのは


もちろん小林秀雄でした。

(詩篇の選択に、青山二郎らの意見が取り入れられたことを否定できませんが。) 


 


 

4作のうちの「いちじくの葉」を除く3作は


1934
年4月22日の日付をもつ作品です。


 

同日の制作に


「狂気の手紙」がありますが


小林秀雄はこれを採らず


「いちじくの葉」を選びました。


 

4作はいずれも


詩人生存中には未発表でしたから


制作者校閲を経過しない没後発表作品ということになります。

 

 


 

よい機会ですから


これらの詩に目を通しておきましょう。 


 

今回は「夜明け」です。

 

 


 

夜明け

 

 

夜明けが来た。雀の声は生唾液(なまつばき)に似ていた。


水仙(すいせん)は雨に濡(ぬ)れていようか? 水滴を付けて耀(かがや)いていようか?


出て、それを見ようか? 人はまだ、誰も起きない。


鶏(にわとり)が、遠くの方で鳴いている。――あれは悲しいので鳴くのだろうか?


声を張上げて鳴いている。――井戸端(いどばた)はさぞや、睡気(ねむけ)にみちている

であろう。


槽(おけ)は井戸蓋の上に、倒(さかし)まに置いてあるであろう。


御影石(みかげいし)の井戸側は、言問いたげであるだろう。


苔(こけ)は蔭(かげ)の方から、案外に明るい顔をしているだろう。


御影石は、雨に濡れて、顕心的(けんしんてき)であるだろう。


鶏(とり)の声がしている。遠くでしている。人のような声をしている。


おや、焚付(たきつけ)の音がしている。――起きたんだな――


新聞投込む音がする。牛乳車(ぐるま)の音がする。


《えー……今日はあれとあれとあれと……?………》


脣(くち)が力を持ってくる。おや、烏(からす)が鳴いて通る。


          (1934・4・22)


(「新編中原中也全集 第2巻・詩Ⅱ」より。新かなに変えました。編者。)

 

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