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2016年6月 2日 (木)

滝口雅子を知っていますか?/「蒼い馬」へ/「歴史 Ⅱ やさしさがかくれる」その1

(前回からつづく)

 

 

 

 

「歴史」前半部「Ⅰ 海への支度」の中に、

 

退いてきた水の瞳は灰色に洗いさらされ

――という行や

 

水のすがたにしみている水の思い出

――という行や

 

底で光りうめきながら月の形を抱きながら

――などの行のような独特の表現が挟まれています。

 

目を凝らして読み

よく咀嚼(そしゃく)して味わいたいところ(細部)です。

 

 

「水の瞳」はしかし、水の瞳です。

 

「水のすがたにしみている水」は、水(の内)です。

 

「月のかたち」も、代わりの言葉を充(あ)てることはできませんし

しないほうがよいでしょう。

 

何度も何度も反芻(はんすう)するうちに

親しくなってくるものが詩です。

 

 

詩の前半部に親密になったところで

「Ⅱ やさしさがかくれる」へ接近しましょう。

 

滝口雅子の「長い時間」は

日本の植民地であった朝鮮の咸鏡北道で生まれて

日本の東京にやってくるまでの経験の上に

第1詩集「蒼い馬」までのすべての時間(歴史)を含んでいることでしょうから

「歴史」後半部も読み過ごせない詩のはずです。

 

 

Ⅱ やさしさがかくれる

 

死ぬことを死ぬこととは思わずに

夜明けをたしかめる一つの暗さであると

夜明けの星の光は「朝」に呑まれていき

やさしさが きびしさのなかにかくれる

お互いの唇に唇をおしあて

お互いの手と手でたしかめられるわれらのを

夜のやさしさを しっかりと

われらのものにするために

 

(土曜美術社「新編滝口雅子詩集」より。)

 

 

3連に分けられた「やさしさがかくれる」の第1連です。

 

この連は

前半4行と後半4行を分別して読んで支障はなく

そうすると前半4行の「息の長いような」詩行が見え易くなってきます。

 

第1行と第2行とを一気に読み

次に第2行と第3行とをまとめて読み

第3行と第4行とを続きで読み

最後に全4行を一つながりで読み

次に後半4行へと進んでいくと

詩はより近づいてくることでしょう。

 

もちろん、こんな読み方は

一つの方便に過ぎませんが。

 

 

死ぬことを死ぬことと思わずに、というのは

この行だけを読むとぼんやりしているのですが

夜明けをたしかめる一つの暗さであると、と続けて読むと

夜はやがて夜明けを迎えるのですから

夜明けよりも暗いのが夜なのですから

その暗さのなかでは死がすぐそばにあったとしても見えにくいものだし

構っていられない

――というようなことが歌われて

第3連へ続いていきます。

 

夜明けをたしかめる一つの暗さであると

夜明けの星の光は「朝」に呑まれていき

 

――は夜明けはやがて「朝」を迎えるのですから

「朝」になれば夜明けに輝いていた星の光は見えなくなる

 

こうして第4行、

やさしさが きびしさのなかにかくれる

――は、

夜のうちにあったやさしさが日中の(日常の)きびしさの中に隠れてしまう

 

 

そのやさしさを

しっかりとつなぎとどめておこう。

 

われらのもっとも大事なやさしさを

夜の中に確かにあったわれらのやさしさ(愛)を――。

 

 

「歴史」全体の7割ほどを読んだところですが

ここでまた滝口雅子の「長い時間」の実際を見ておきましょう。

 

 

1938年に、一人海を越え、上京したころの滝口雅子について

高良留美子が次のように記しているのは

この詩「歴史」を読む大きな手掛かりになります。

 

 

 四歳のときに生母を失い、滝口家の養女となった彼女は、すでに生家の親戚関係とはほとんど切りは

なされてしまっていたのだが、さらにこの上京とそれにつづく戦争、敗戦によって、生地朝鮮での過去の

家族関係、友人関係のほとんどを失い、敗戦直前には養母も失って、ほぼ完全に孤独の身となってい

る。

 

(「新編滝口雅子詩集」解説「滝口雅子さんの詩について」より。)

 

 

「歴史」が

「完全に孤独の身」であった現実と無縁であるがずはありません。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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