折にふれて読む中原中也の名作/「いちじくの葉」
酷熱の夏日がやってくる前に
強い風が吹く雨の合間の曇り日が続きますが
この日々の爽快さは梅雨の恵みの一つなのに
はやく青天になってくれと炎熱日を願うのは
凡人の身勝手というものでしょうか。
もっと今=現在を感謝して生きればよいものを!
――なんて、自らを戒めます。
炎熱無風にくらべたら
今の爽快な気候を
ありがたく感じられないのは
野分(台風)のありがたさが感じられないのと似ていますね。
(無論、台風が惨禍を残すことは承知の上での話です。)
◇
蝉(せみ)はまだ鳴きはじめませんが
いちじくの葉はぐんぐん茂り
風は電線を揺らす時が今日もあります。
中原中也は
自然を凝視(ぎょうし)しながら
今、その時に湧き上がる悲しみを歌います。
◇
いちじくの葉
夏の午前よ、いちじくの葉よ、
葉は、乾いている、ねむげな色をして
風が吹くと揺れている、
よわい枝をもっている……
僕は睡(ねむ)ろうか……
電線は空を走る
その電線からのように遠く蝉(せみ)は鳴いている
葉は乾いている、
風が吹いてくると揺れている
葉は葉で揺れ、枝としても揺れている
僕は睡ろうか……
空はしずかに音く、
陽は雲の中に這入(はい)っている、
電線は打つづいている
蝉の声は遠くでしている
懐しきものみな去ると。
(1933・10・8)
(「新編中原中也全集 第2巻・詩Ⅱ」より。新かなに変えました。編者。)
◇
1933年(昭和8年)制作。
中也26歳です。
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