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2016年6月12日 (日)

滝口雅子を知っていますか?/タイトル詩「蒼い馬」を読む

(前回からつづく)

 

 

 

 

 

詩集のタイトル詩を読む準備が

大方、整いました。

 

詩集「蒼い馬」には

29の詩篇が収められています。

 

数えて10番目に「蒼い馬」は配置されています。

 

滝口雅子という詩人のアウトラインを

ざっとつかむことができたので

第1詩集のタイトル詩「蒼い馬」は近くにあります。

 

 

蒼い馬

 

沈んだつぶやきは 海の底からくる

水のしわをすかして見える一匹の馬の

盲いたそのふたつの目

かってその背中に

人をのせた記憶さえうすれて

海底を行く一匹の蒼い馬

馬はいつから 海に住むか

背なかに浴びた血しぶきは

自分のものだったか

誰のだったか

何の気取りもなく 片脚で

からみつく海藻を払いながら行く

盲いた馬の目は ひそかに

海のいろよりも

遠くさびしい藍色を加え

傷ついた脇腹からしみ出る血は

海水に洗われ

水から水へ流されて――

 

秋になると

海面にわき上るつめたい濃霧

そのとき 海底の岩かげに

馬はひとり脚を折ってうずくまる

つめたさに耐えて

待つことに耐えて

 

(土曜美術社「滝口雅子全詩集」より。)

 

 

冒頭、

沈んだつぶやきは 海の底からくる

――のつぶやきは誰のものだろうという疑問は

全行を一通りなぞれば

すぐさま詩の主格である馬のものであることがわかるでしょう。

 

読者はいきなり

馬のつぶやきを聞く位置に立たされますが

そのつぶやきが海の底からくるものであっても

すでにそこ=海の底にいます。

 

海の底にいて

水の皺(しわ)の向こうに1頭の馬がいるのをとらえ

その馬の盲いた二つの目をとらえることができます。

 

詩は難解というものではなく

比較的、平易な言葉で作られていますから

詩の中へいつのまにか入り込んでいます。

 

 

なぜ馬が海の底に住んでいるのだろう?

 

そのように問うても

理由を詩(行)の中に見つけることはできません。

 

馬はかつて背中に人を乗せた記憶さえ薄れていて

いつから海に住んでいるのか

背中の血しぶきが自分のものなのか

誰かほかの人のものなのかをも思い出せないのですから。

 

 

なにがしかの事件が起きたのは

遠い過去のことなのかもしれませんし

つい最近のことなのかもしれませんし

現在も起きていることなのかもしれません。

 

盲いた目の理由を

読者は想像するしかありませんが

しかし……。

 

 

何の気取りもなく

海藻を片方の脚で

払い除(の)けながら進んでいるのです。

 

何の気取りもなく

――というのは

必死な気配すらなく

――というほどの意味合いでしょうか。

 

だから、必死でないということではないのでしょうが。

 

からみつく海藻を振り払うしぐさが

自然で

厄介な障害物に抗(あらが)っている風でなく

だから、抗っていないというわけではないのでしょうが

見えない目が

海の藍色よりも

遠くさびしい藍色を湛(たた)えています。

 

脇腹からにじみ出る血は

苛烈な事件の痕跡を物語るのですが

詩(行)は、

血が海水に洗われ

流され続けていることだけを追います。

 

 

やがて季節はめぐり

海面に冷たい濃霧の湧き上がる秋が訪れると

海底の岩陰に

馬は脚を折ってうずくまっています。

 

冷たさに耐えて

待つことに耐えて。

 

 

海の底にすむ

盲いた、傷ついた馬が

海藻を掻き分けゆっくりと歩んでいる

 

秋になれば

やがて来るべき冬へそなえて

じっと耐える姿勢になる

――というシンプルなストーリーが語られるだけの詩行でありながら

色々なことを語っている

不思議な魅力のある詩です。


 

いったいその不思議さ、魅力はどこから生まれているのでしょう。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

 

 

 

 

 

 

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