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2016年7月21日 (木)

滝口雅子を知っていますか?/タイトル詩「蒼い馬」を読む・その3

(前回からつづく)

 

 

 

滝口雅子が単身で日本の土を踏み

東京・世田谷の速記塾へ入ったのは1938年の5月、

その3か月前から通信教育で速記を練習していた

――と年譜にあるのは19歳の時でした。

 

9月の誕生日には

20歳になる年でした。

 

 

単身上京を記したこの1938年(昭和13年)の項の前に

1936年(昭和11年)の項があり

ここには、女学校を優秀な成績で卒業したことが書かれ

奈良女(奈良女子高等師範)をひそかに目ざしていたが

(養父の)承諾が得られず

詩人は裁縫と生け花の稽古に通ったことが記録されています。

 

上級学校への進学の願いは

あっさりと却下されたのでしょうか

年譜には無念の感情は抑制されていますから

事実だけが記録され

詩人のリアクションは明記されていません。

 

代わりに、

萩原朔太郎の「氷島」や

室生犀星の「愛の詩集」や

宮沢賢治などを読んだこと、

さらに、肺門淋巴腫脹という病気で

1年間の療養を余儀なくされたことが記録されています。

 

これは、1937年にわたる記述のはずですから

単身上京のプランはこの2年の間に練成されたのでありましょう。

 

 

年譜のこのあたりをひもといているうちに

詩集「蒼い馬」の冒頭詩「歴史」の前半部「Ⅰ」がよみがえってきます。

 

「Ⅰ」には、まさしく「海への支度」というタイトルがつけられていました。

 

 

それは流れるために 木の破片や樹の葉を

めぐって遠廻りしながらもあきることなく

流れつづけるためにある

おおいかぶさる樹木の緑にかくれながら

岩にぶつかって のけぞって

退いてきた水の瞳は灰色に洗いさらされ

しるされた傷の重たさが水底に沈む

水のすがたにしみている水の思い出

幾度かその面にやさしい愛が燃え

落葉と共に流れた女のからだの思い出

うっすらと また

爆発する濃さで しびれる夢の短かさで

それもいつかうすれていって

こまかくうちくだかれて 思い出の暗さの

底で光りうめきながら月の形を抱きながら

前よりもやせてせきとめられた激しい流れが

夜も休むことなく眠りもなく

流れつづけることで海への遠い

ひそかな支度をする

朝がきて昼がきて陽の光をとかし夜をとかし

季節の移りのなかで流れつづける時間は

時間みずから

流れすぎていくためにあり あたらしい

思い出をくみ立てて

歴史の深いダムのなかへ流れこむ

 

(「新編滝口雅子詩集」より。)

 

 

それは流れるために 木の破片や樹の葉を

めぐって遠廻りしながらもあきることなく

流れつづけるためにある

 

――という歌い出しの「それ」は

依然として謎がのこりますが

「歴史」にしても

「蒼い馬」にしても

「それ」が指示する実態(本体)は詩人に重なるものに違いはないはずですから

そのあまりにも大きな時間の正体を

「それ」そのままにしておくことのほうがよいかもしれません。

 

ここでは、中の、

 

前よりもやせてせきとめられた激しい流れが

夜も休むことなく眠りもなく

流れつづけることで海への遠い

ひそかな支度をする

 

――という詩行が

くっきりと、衝撃をともなって、

呼び起こされてくることに目を離さないことにしましょう。

 

前よりもやせてせきとめられた激しい流れ

――という1行に。

 

 

「歴史」は

せきとめられた流れが

やがて巨大な悲しみのような怒りのようなものを沈めたダムとなる流れを歌います。

 

上級の学校(奈良女)への進学の希望を絶たれた詩人の無念は

無念のまま終わることはありませんでした。

 

詩(人)はそこからはじまっているのです。

 

 

途中ですが

今回はここまで。

 

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